2023年09月01日 1786号

【日米韓首脳会談/戦争のための軍事同盟強化へ/侵略戦争の責任帳消し】

 8月18日に米国で開催された日米韓首脳会談は、安全保障関係を「新たな高みに引き上げた」とする共同声明を発した。「新たな高み」とは何を意味するのか。それは中国、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を名指ししたアジアにおける親米軍事同盟の形成だ。いわば「インド太平洋版NATO(北大西洋条約機構)」への一歩ということだ。

アジア版NATO

 共同声明はこう言っている。「日米同盟と米韓同盟の戦略的連携を強化」する。

 これまで、日韓の間で軍事同盟などありえなかった。韓国は、セレモニーであっても旭日旗を掲げた自衛隊艦船の入港を拒否したこともある。合同軍事演習への市民の反発は極めて大きい。

 そこには、かつて侵略・占領・植民地化された国と、その戦争責任をあいまいにし戦後賠償に向き合わない不誠実な国との関係が続いているからだ。軍事大国日本の再来に対する警戒感は、韓国に限らず、日本軍に占領されたことがあるアジア諸国に広がっている。

 東アジアで親米軍事同盟をつくるには、まずこの日韓間の「壁」を壊す必要があった。象徴的なのが8月15日、日本敗戦、植民地解放を祝う韓国光復節での尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の演説だ。「日本は今や韓国と普遍的価値を共有し、共同の利益を追求するパートナー」。日本と同様、戦争犠牲者を切り捨て、海外進出をめざす「パートナー」なのだ。

 バイデン大統領は「あなたがたの政治的勇気に感謝したい」と日韓首脳の政治決断を大げさに称えた。それだけの意味があるということだ。今後、日米韓の合同軍事演習を日本海で行うことができる。朝鮮半島から、沖縄・琉球弧、台湾をつなぐ連合軍。朝鮮、中国を3か国共通の敵国≠ニした戦争シナリオが可能となるのだ。

対中経済包囲

 共同声明にはもう一つ見過ごせない点がある。「経済安全保障と技術分野でも強固な協力を築き上げる」。経済安保は、サプライチェーン(供給網)から中国を締め出そうとする経済的中国包囲政策である。

 世界市場の奪い合いである米中経済戦争。バイデン政権は、中国の「軍事的脅威」を前面に押し出し、対中経済制裁(中国製品の締めだし、高関税付加など)を正当化しようとしている。今回の「新たな高み」に引き上げたという3か国軍事同盟は、この米国の対中国経済包囲網に日韓も「協力」することを示している。

 日韓にはそれぞれ米国とは異なる中国経済との関係性がある。だが、軍事緊張を煽ることが政権維持には都合がよいと判断しているのが現在の3か国首脳だ。

 揃いも揃った好戦的政治指導者を、日米韓の市民は連帯してその座から引きずり降ろさなければならない。

  *  *  *

 尹大統領の光復節演説に「戦争犯罪の歴史をすべて消してしまった」と韓国国内から批判が上がった。一方、日本にも侵略戦争の歴史を消そうとする発言があった。麻生太郎自民党副総裁が8月8日、訪問先の台湾で「戦う覚悟が必要」と講演した。「戦争は二度としない」決意のもと、戦争を放棄した歴史を消し去ろうとするものだ。沖縄県民は緊急に抗議集会を持った。全国から批判の声をあげる必要がある。
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