2023年09月08日 1787号

【海を汚し健康被害をつくりだす 福島原発汚染水の海洋放出強行 ただちに停止だ】

 岸田首相は、8月20日に福島原発を視察し、21日には全国漁業協同組合連合会(全漁連)と会い、国際原子力機関(IAEA)の包括報告書などを通じて安全性を確認したと形ばかりの説明。22日、関係閣僚会議で福島原発の汚染水海洋放出を決め、24日午後、東京電力は放出を強行した。

 岸田政権は、福島県内市町村議会の意見や漁業者、市民の反対の声、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との文書確約すら踏みにじった。許すことのできない暴挙だ。

放出基準は何のため

 海洋放出は、海を汚染し、安全でもなく、被害はいわゆる「風評」だけではない。

 IAEAのグロッシ事務局長は、7月4日に岸田首相に「国際的な安全基準に合致する」とする包括報告書を手渡し、「海洋放出によって放射線が人や環境に与える影響は無視できるレベル」と述べた。だがIAEAは「中立的な団体」などではない。その目的に「原子力の貢献を促進し、増大するよう努力する」と明記する原発推進組織だ。しかも、今回報告書をまとめた調査事業予算は日本の100%任意拠出によるもの(外務省、国際機関等への拠出金等に対する評価)。そもそも結論ありきなのだ。

 「安全基準」も人の健康や安全のためではない。

 日本のトリチウム放出基準(総量)は加圧水型の場合が74兆ベクレル/年に対して、沸騰水型は3兆7千億ベクレル/年で、原子炉の型によって20倍も違う。人の健康や安全のための基準ならば、原子炉の型が違っても同じ数値になるはずだ。冷却水にほう素などを添加する加圧水型がより多くのトリチウムを発生させるという事情に配慮して、基準を変えているのだ。

被害は"風評"で済まない

 国や電力会社は、「トリチウムは体内に入っても蓄積されず、水と一緒に排出される」「放射線は細胞を傷つけるが、細胞には修復機能がある」から安全だと宣伝している。

 トリチウムは水素の放射性同位体で、水素と同じように酸素と化合して水分子を構成し、生体内に入り水素と置き換わる。トリチウムがDNAなどに入り込み有機結合型トリチウムになった場合、大きな問題が発生する。トリチウムは放射線を出してヘリウムに変わるが、その時DNAの切断が起こり、分子構造が破壊され修復されないことも起こり得る。その結果、がんを発症したり、遺伝的影響が引き起こされる。

 その実例は多くあるが、加圧水型の玄海原発が稼働した後、長崎県壱岐(いき)市で白血病死亡者が6倍以上に増えたことが明らかになり、地元紙が大きく報道した例(壱岐新報2019年3月1日付)が端的だろう。



 こうした健康被害をつくりだすトリチウムだけで、たとえ「薄め」ても今年度に総量約5兆ベクレルが投棄される。さらに、処理では取り除けない放射性物質ストロンチウム90や炭素14などはほったらかしだ。

 つい最近、米国ニューヨーク州で、原発から放射性物質をハドソン川に投棄することを禁止する「ハドソン川を救え」法が成立した。これは、閉鎖された原発の使用済み核燃料の貯蔵プールのトリチウム汚染水をハドソン川に放出する計画が発表されるや、健康被害を懸念する周辺の自治体や市民団体が反対運動を繰り広げた結果、法律化されたものだ。米国でも、トリチウムが健康被害をもたらすことは知られるようになっているのだ。

声をあげ続けよう

 海洋放出は強行されたが、闘いはこれからだ。

 すでに全国各地で抗議行動が取り組まれている。岸田政権の暴挙を許せないとする漁業関係者や住民が国と東京電力を相手取り海洋放出差し止め訴訟を起こすことを決めた。第一次提訴は9月8日福島地裁に対して行われる。

 この訴訟を全国から支援し、岸田政権に対する批判の声を広げ、海洋放出を停止させよう。

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