2023年09月08日 1787号

【未来への責任(381) 政治決着でない日本政府の対応を】

 3月6日の「解決策」発表―日韓「政治決着」から半年が経過した。「解決策」で2018年の韓国大法院判決を“なかったもの”にしようとした目論見(もくろみ)は結局うまくいっていない。

 大法院判決を受けた原告のうち4名は依然として第三者弁済を受け入れていない。業を煮やした韓国政府は、賠償金相当額の供託手続きを行い、原告の債権を消滅させようとした。しかし、裁判所の供託官はこれを受理しなかった。韓国民法では「当事者の意思表示で第三者の弁済を許容しない時」には第三者弁済はできない。原告が拒否しているのに供託を認めるわけにはいかないと供託官は判断したのである。

 これを不服として政府(「財団」)は異議申立を行ったが、裁判所は棄却。ここで引くわけにはいかない韓国政府はさらに抗告状を出したという。

 尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の決断で進めた「解決策」は、法廷の場でその正否が争われることになってしまった。裁判が大法院まで行くことは明白で、容易に決着はつかないだろう。

 「政治決着」で日韓政府の関係は修復したが、強制動員被害者の人権は回復せず、問題解決には結びつかない。こうなることは予測されていたが、事態はそのとおりに推移している。

 「解決策」は、それだけでは強制動員問題の解決にはならない、そうなるためには日本の「誠意ある呼応」が必要だ、と韓国政府は言っていた。しかし、日本政府、被告企業はそれに応えなかった。岸田政権は「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と言ってすませた。さすがにこれでは足りないと考えたのか、岸田文雄首相は5月7日の日韓首脳会談では、「当時厳しい環境のもとで多数の方々が苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む思いだ」と述べた。

 しかし、一方で「旧朝鮮半島出身労働者問題」などとして強制動員の事実を否定しつつ、「心が痛む」と言っても被害者の心には響かないだろう。

 今から20年以上前、2002年11月に出された「朝鮮人強制連行・強制労働に関する質問主意書」(提出者=近藤昭一衆院議員)に対する答弁書で、小泉純一郎内閣は「政府としては、いわゆる朝鮮人徴用者等の問題を含め、当時多数の方々が不幸な状況に陥ったことは否定できないと考えており、(中略)多くの方々に耐え難い苦しみと悲しみを与えたことは極めて遺憾なことであった」と述べていた。「今後、いわゆる朝鮮人徴用者等に関して新たな情報がある場合には、必要に応じ対応してまいりたい」と事実調査等にも一定は応ずる旨を表明していた。岸田政権もまずこのレベルには戻るべきだ。そこからしか先には進めない。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

韓国政府の「供託」を裁判所は受理せず
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