2023年09月15日 1788号

【福島原発/処理をしても放射能汚染水/日本政府に科学的根拠なし】

間違いなく汚染水

 野村哲郎農林水産大臣が8月31日、福島原発から放出された「処理水」を「汚染水」と表現したと、与野党から非難の声があがった。本人はすぐさま「言い間違えた」と謝罪し撤回したが、大ニュースになっている。翌日改めて謝罪会見を開いたものの、野党は翌週の国会閉会中審査で追及する構えだ。

 この発言がなぜ問題になるのか。「中国が使う『汚染水』と発言」とマスコミが報じるように、日本からの水産物全面禁輸措置をとった中国に塩を送るような発言を農水大臣がしたことがけしからんというわけだ。

 だが、福島原発から捨てられる水は、明らかに放射能汚染水である。政府の言う「処理水」とは、多核種除去装置(ALPS)で処理し、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」。ところが東電の発表でも、貯水タンクに保管されている133万立方bの処理水(2023年8月)の7割は「規制基準」を超えている。政府の定義でも「ALPS処理した汚染水」なのだ。結局、再度ALPSを通そうが、どんなに薄めようが総量約860兆ベクレル(19年10月時点)以上の放射性物質を海洋投棄する事実はかわらない。

日本政府が限定

 日本政府は、中国の水産物全面輸入禁止措置に対し、「科学的根拠に基づく対応を」と繰り返し、非科学的な過剰反応との印象操作をしている。中国政府は逆に、日本政府のいう「科学的根拠」を疑っている。

 日本の根拠は主に2点。IAEA(国際原子力機構)が「国際的基準に合致する」と報告書を出したこと。他の国の原発から放出される量に比べても少ないこと。

 IAEA報告書には多くの疑惑が指摘されている。そもそも日本政府がIAEAに「ALPS処理水の安全評価」を委託したのは21年7月。菅政権が4月に海洋投棄方針を決めてからだった。

 中国国営の新華社通信は8月27日、「IAEAを利用して、海洋放出計画を『お墨付き』にすることだった」と指摘している。実際、中国のIAEA常駐代表団の報道官は「IAEAの評価の範囲は、日本によって厳格に限定され、海洋放出以外の考えられる処理方法も、放射能汚染水浄化装置の有効性や長期的信頼性も含まれていない」と述べている(新華社8/26)。日本が提供した少量の汚染水サンプルを分析したに過ぎず、十分な科学的根拠を欠いていると指摘。「汚染水放出計画にいかなる合法性も正当性も付与することはできない」。報告書は日本政府のコントロールの下で作られたといえる。

IAEAの支持なし

 それでも報告書の表紙見返しには、「この見解はIAEA加盟国の見解を必ずしも反映するものではない」ので「IAEAと加盟国は本報告書の使用から生じる結果に対して、いかなる責任も負わない」と言い訳が書いてある。また、巻頭言にはグロッシ事務局長が「処理水の放出は、日本政府による国家的決定であり、本報告書はその方針を推奨するものでも支持するものでもないことを強調しておきたい」と念押ししている。これが日本政府が「科学的根拠」とする報告書の性格なのだ。

 原子力利用推進機関であるIAEAも、日本政府の方針を全面的に擁護できなかった。原発を運転すれば放射能汚染水の放出はさけられないし、福島のケース以上の放射性物質を放出している原発があるのは確かだ。しかし、福島の汚染水は、核分裂を続ける溶けた燃料棒に直接接触しているものであり、長期間にわたるALPS処理の効果も確かめられていない。IAEAは、これまで「静かに」放出してきた核汚染水に、福島原発で注目を集めるのは避けたいのだ。

抗議は中国だけでない

 汚染水の海洋投棄に反対しているのは中国だけではない。マーシャル諸島の国会は3月「福島原発から太平洋への放射能汚染水投棄に重大な懸念を表明」する決議をあげた(東京8/24)。「海洋資源に大きく依存している太平洋諸島の人びとの命と生活を脅かす」からだ。北マリアナ諸島の議会も同様の反対決議をあげた。かつて、核実験の被害を受け、1980年代には日本が核廃棄物の投棄を計画した島々が抗議するのは当然だ。

 マスコミは、ことさら中国からの抗議電話を「嫌がらせ」と報道しているが、市民の抗議行動は、韓国、フィリピン、マレーシアなどアジア諸国でも大きくなっている。

 放射能汚染に対する市民の不安を「過剰反応」と切り捨てることは許されない。政府は、反中国感情を煽るのではなく、直ちに汚染水投棄を中止し、モルタル固化など他の方法を検討すべきである。

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