2023年09月15日 1788号

【住宅追い出し許さない仙台集会/国際人権法の権利侵害を指摘/清水宇都宮大教授が講演】

 「福島県による原発避難者の強制的住宅追い出しは、国際人権法の権利の侵害にあたる」。宇都宮大学国際学部・清水奈名子教授は、8月27日に仙台市内で開かれた集会で行政による住宅立退き訴訟に言及した。

 同訴訟は現在、福島地裁の判決を経て仙台高裁で「審理中」だが、7月10日に始まった第1回控訴審でいきなり結審という暴挙に出た。地裁も高裁も、国際法に全く触れないまま、行政の裁量権で避難者の権利を奪おうとしている。

 主催したのは「避難者住宅追い出しを許さない会」(福島原発事故被害者連絡会が共催し、みやぎ脱原発・風の会が協力)。許さない会は、弁論再開を求める抗議要請ハガキに取り組み、緊急オンライン署名は1万6千を超えた。だが、「このままでは、原発事故に伴う住宅保障は個人の問題にされてしまう」と、闘いの広がりを目指す。

国連報告書の重み

 講演内容を紹介する。

 清水さんは「日本は、被ばくを避ける権利を保障する災害法制度自体が不在で、法の欠缺(けんけつ)状態にある。この場合、上位規範である国際人権法、憲法を参照する必要性がある」と基本的な見解を述べた。

 昨秋、国連人権理事会の特別報告者セシリア・ヒネメスダマリーさんが来日調査し、この7月、報告書を公表。「報告書の第69段落で『公営住宅から国内避難民を立ち退かせることは、国内避難民等の権利侵害』と述べているが、報告書の中で『権利の侵害』と記述したのは立退き訴訟に言及したこの箇所だけで、それほど重要視されている」と説明した。

 特別報告者は、不偏不党性を担保する独立の専門家で加盟国の人権状況や世界的な人権侵害を調査し必要な勧告を行う役割を担っており、「国連の一機関の個人見解」と軽視する福島県の認識の誤りを批判した。また、「勧告に法的拘束力がない」とする国・県の言い訳に対しては、「個人の権利保障を国家に義務付ける国際人権法の特徴から、その実現には立法・行政・司法の協力が不可欠で、理事会と国家間の『対話と協力』を進めようと勧告を発する意味があり、拘束力がない(守っても守らなくてもいい)という性格の話ではない」と、勧告の重みを訴えた。

 日本政府は、2019年に福島からの避難者を国内避難民として受け止め、「国内避難民に関する指導原則(1998年)」を受け入れている。「2017年、オーストリアからの『自主避難者に対して住宅、金銭その他の生活援助』勧告、ポルトガルの『原発事故のすべての被災者に指導原則を適用すること』の勧告に、日本政府は『フォローアップすることに同意する』と回答している。これは回答の中で最も重く受け止めた表現だ」。さらに、「2020年には、外務省ホームページに指導原則を掲載し、各都道府県の避難者支援担当部署にも参考として周知し、管内市区町村へも周知するよう依頼している。そのことは福島県も知っているはずだ」と指摘。

 清水さんは報告書から「立退きが、県外で暮らす世帯をさらに困窮化させることになる。避難を続けるため住宅へのアクセスができるよう制度化を」(第71段落)、「政府は、自らの意思で帰還できる、他の場所に再定住できるよう条件を整える第一義的な義務と責任を負っている」(第97段落)などを説明した。

"自由権侵害"と意見書

 清水さんは、立退き訴訟で仙台高裁に「意見書」を提出したことを紹介した。「控訴人等(避難者)の主張は特殊でも例外でもなく、退去を求めることは保護されるべき移動と居住に関する自由権の侵害だ」と意見。「侵害されている権利の保障を実現することは、他の避難者だけでなく、帰還した人びと、被災地に残って生活している人びとへの支援の継続の必要性にもつながる」と意義を述べ、「被災者の権利保障を行政機関が迅速に実現できずにいるのであれば、その実現を促すことが司法に強く求められている」と公正な審理を求めた。

 講演を機に、世界の人権の「常識」が通用しない日本にあって、国際人権法を根付かせる闘いを広げていかねばならない。



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