2023年09月15日 1788号

【朝鮮人虐殺 「政府内に記録ない」/松野官房長官の見え透いた嘘】

 「政府として調査した限り、政府内で事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」。関東大震災における朝鮮人虐殺について、松野博一官房長官は定例会見(8/30)でこう語った。政府としての反省点を記者に問われても、一切言及しなかった。

 内閣府の中央防災会議が2009年に作成した報告書は、軍隊、警察、自警団が行った朝鮮人に対する迫害行為を検証し、「虐殺という表現が妥当する例が多かった」と指摘している。だが、松野は「(報告書は)有識者が執筆したものであり、政府の見解を示したものではない」と強弁(8/31)。事実関係を把握できる記録は見当たらないとの見解をくり返した。

 無茶苦茶な主張である。政府がネトウヨ並みの嘘を拡散してどうするのだ。「公的記録がない」は歴史修正主義者の常套手段だが、国家意思として朝鮮人虐殺の史実を隠蔽しようとしていることは明らかだ。

 朝鮮人虐殺について書かれた政府文書は多数存在する。司法省刑事局「震災後に於ける刑事事犯及之に関連する事項調査書」、内務省警保局「大正十二年九月一日震災後に於ける警戒警備一班」といった資料はウェブでも閲覧できる。

 当時の官憲の記録には、規模のわい小化や住民への責任押しつけ(国家責任の隠蔽)といった共通の問題がある。それでも虐殺が発生したことは認めている。実態と比べ著しく少ない件数とはいえ、実行犯の裁判記録も存在する。

 そもそも、市井の人びとによる膨大な数の目撃証言が残されている。その重みを踏まえるなら、朝鮮人虐殺について聞かれ「記録は見当たらない」の一点張りという態度は許されない。それは政府として「虐殺はなかった」論に与(くみ)することを意味している。  (M)
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