2023年09月22日 1789号

【最高裁 政府の不当介入容認/辺野古裁判 沖縄県の訴え聞かず/「承認義務」なし デニー知事頑張れ】

 辺野古新基地建設の変更申請不承認への国の不当な介入に対する沖縄県の訴えを最高裁判所は9月4日、8月24日に続いて退けた。これで沖縄県は「承認義務」を負った、と報道されている。しかしこのマスコミ報道は、県の訴えを審査もしなかった最高裁を擁護するものであり、新基地反対の民意を押しつぶす役割を果たすものだ。何が問われるべきなのか、改めて整理する。

Q 最高裁は何を判断したのか

 最高裁が沖縄県の2つの訴えに出した答えはこうだ。

 1つめ。国土交通大臣が行政不服審査法(行審法)を誤用し「不承認取り消し裁決」を出したのは違法とする訴えは「不受理」。不受理とは、県の上告受理申立書を受け取りもしないこと。最高裁はその理由書を見てもいない。これまで出ている最高裁の判断で足りるということらしい。県は、最高裁の判断と異なる解釈を福岡高等裁判所那覇支部が行ったと訴えているのに、取り上げもしなかった。

 2つめ。地方自治法(地自法)を悪用した国交大臣の「是正(承認)指示」は違法とする訴えは「棄却」。中身は見たけど、上告理由になっていないから訴えを取り上げないというのだ。判決文は「(高裁の是正指示は適法とする)判断は結論において是認することができる」ので、「(違法とする県の)論旨は「採用することができない」とした。

 この最高裁の判決に、原告の沖縄県玉城デニー知事は「県が主張した公有水面埋立法(公水法)の承認要件の不充足について何らの判断を示さず、県の訴えを退けた」とコメントを出した。まったくその通りだ。

 県と国交大臣の争点は、辺野古埋め立て工事の変更申請には軟弱地盤対策もジュゴン保護も欠けているなどとする県の主張が正しいのか、県の要求は公水法を逸脱し違法とする国交大臣の主張が正しいのかという点にある。最高裁はこれには一切触れていない。国交大臣が正しいものとして、「是正指示」は形式的に適法と言っただけだ。

Q 沖縄県は「承認義務」を負うのか

 最高裁の不当な判決でも「承認」を義務付けたわけではない。判決文を確認しよう。「(県は)上記裁決(国交大臣の不承認取り消し裁決)に従って、改めて上記(変更)申請に対する処分をすべき義務を負うというべき」としている。つまり、国交大臣の裁決の適否は問わず、県の不承認処分が取り消されたのだから、もう一度、変更申請を審査して処分しなければならないと言っているに過ぎない。

 この後にこう続く。不承認処分の取り消しを受けても県が承認しないのは法令違反だから、国交大臣がそれをただすため、承認するよう「是正指示」するのは適法だ。これだけだ。

 では、国交大臣は県に承認を義務付けることができるのか。それはできない。

 公水法の承認は、国の事務を自治体に任せることとしている法定受託事務であり、所管大臣が自治体に「是正指示」を出せるのは「法令の規定に違反していると認めるとき」か「適性を欠き、公益を害していると認めるとき」に限られている。しかも、指示の内容は「違反の是正、改善のために講ずべき措置」でなければならない。これは「承認」を意味しない。

 国交大臣が「法令の規定に違反」したとしたのは、不承認理由である。軟弱地盤対策やジュゴン保護を求めることが「権力の濫用」で「法令違反」だとされたのだから、この他に理由がなければ変更申請を承認せよという意味でしかない。

Q どんな選択ができるのか

 変更申請を審査して、違う理由をもとに改めて不承認とすることができる。

 沖縄防衛局の変更申請にはまだまだ欠陥がある。独自に検証を進める地質の専門家チーム「沖縄辺野古調査団」(代表立石雅昭新潟大学名誉教授)が指摘するのは、設計の基準が間違っている点だ。辺野古に造られるのは飛行場であり「空港」基準とすべきところ、港の桟橋などをつくる場合の「港湾」基準を適用しているのだ。

 この基準の違いによって何が変わってくるのか。たとえば、どんな地震に耐えられる施設にするか。沖縄防衛局の設計は震度4相当の40ガル(加速度の単位。物体に働く力の大きさ)としているが、空港基準を適用すれば震度6弱170〜300ガルを想定しなければならない。

 この基準適用の誤りは、当初申請から問い直すことになる。変更申請の審査にだけ適用するわけにはいかないとすれば、当初の「承認」を撤回すればよい。むしろ一から設計し直さなければならない問題だ。

 そもそも公水法は「環境保全及び災害防止に十分配慮していないものは埋め立てを認めてはならない」と、都道府県知事に釘をさしている。今の計画のまま埋め立て工事を進めれば、震度1〜3程度の地震で軟弱地盤上の護岸が崩壊する危険性があることが分かっている。工事中に崩壊すれば建設労働者の人命にかかわる。大量の土砂が大浦湾に流出し、広範囲にわたり環境破壊がおこる。だから承認してはならない。これが公水法に則(のっと)った適法な判断だ。

 県が「承認」しなければ、国交大臣は「代執行」により「承認」するだろう。所管大臣が公水法を守らず、人命の危険、環境破壊を引き起こすような工事を認めるとなれば、その罪悪は全国の自治体に及ぶ。辺野古問題は全国の問題なのだ。

Q どう闘えばよいのか

 沖縄では県庁前広場で最高裁判決に抗議する集会(主催オール沖縄会議)が開かれ、約700人が声を上げた(9/5)。沖縄平和市民連絡会など13団体が知事に対し要請書を出している(8/28)。「設計変更申請を承認することなく、再度の不承認、又は埋め立て承認を再度撤回すること」「有識者による第3者委員会を設置すること」。県の幹部職員からは「最高裁判決は重い」など「承認やむなし」の声が伝えられるが、そうであってはならない。

 三権分立の原則は崩れている。政府は事業者(防衛省)と審査庁(国交省)、関与庁(国交省)が一体となって、公水法の審査をすり抜けて、欠陥工事を合法化しようとしている。これに手を貸しているのが、一連の司法判断、判決だ。

 司法は行政府の違法行為を擁護し、支えている。黙って従うわけにはいかない。自治を守り、政府に法の支配を押し付けるうえでも、決して認めてはならない問題だ。沖縄県だけでなく、すべての自治体、市民が政府、司法の横暴と闘わなければならない。

  *  *  *

 「(辺野古新基地は)何のために造っているのか。ドローンの時代には使えない不要な基地だ」 。米軍幹部がそう漏らしたという(9/4東京新聞)。計画から四半世紀。しかも完成のめどが立たない。完成するとしても事業費は当初の10倍、2兆円〜3兆円、それ以上になる可能性さえある。これだけの税金をつぎ込んで、米軍さえ不要とする施設を造り続けている。崩壊すれば、取り返しのつかない被害が生じる。こんな馬鹿げた政策に固執する政権を一刻も早く、取り換えなければならない。



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