2023年09月29日 1790号

【大阪カジノ 実施協定のあやうさ/事業者の言いなり 公金投入認める維新/府民公聴会で国、府市は説明を】

 大阪府とカジノ事業者が結ぶ「実施協定」案が9月5日、示された。カジノ開業時期など当初の想定からは1年遅れる。「都構想」を降ろした大阪維新の会に残された生命線「万博、カジノ」。これを止めれば、維新政治を断ち切ることができる。なによりも、市民の力が政策転換を勝ち取る、そんな実例を示すことができる。カジノ阻止の闘いは山場だ。

整備計画から見直し

 大阪IRカジノは今どんな段階にあるのか。

 刑法で禁じられている賭博(カジノ)を「罰しない」ようにする特別な法律。2016年に制定された「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(IR推進法)と18年「特定複合観光施設区域整備法」(IR整備法)だ。

 カジノを含む複合施設(IR)を認める仕組みをIR推進法で、開業への手順をIR整備法で定めた。カジノの収益の一部をレクリエーション施設などの維持・運営に使い、地域の観光振興に役立てる「公益性」などを大義名分としているが、基本は賭博ビジネスを認め、その儲けから、政府や自治体が分け前をせしめることでしかない。

 賭場開設の手順はこうだ。自治体・IR事業者が作成した区域整備計画を国土交通大臣が認定すると、都道府県とIR事業者は「速やかに実施協定を締結しなければならない」(IR整備法13条)。この実施協定は国交大臣の認可を受けなければならず、その際、関係行政機関の同意もいる。

 今年4月に区域整備計画の認定を受けた大阪IRカジノは、実施協定の案を9月5日開催の大阪府市「副首都推進本部会議」で確認、8日、認可申請にいたった。

 実施協定は区域整備計画を実施するための協定であるが、大阪府が申請したものは認定された整備計画どおりではなかった。そのため、元の整備計画の変更も合わせて出した。この場合、名称の変更など軽微なもの以外は、改めて認定を受けなければならない(同法第11条)。

軟弱地盤は市負担

 実施協定案を見ると、「撤退」をちらつかせるカジノ事業者を大阪府市が必死にひきとめている、そんな構図が浮かんでくる。

 まず、事業工程のずれ込みだ。区域整備計画に比べ、工事の着手や完成、開業時期が1年ずつ遅れている。国の認定に時間を要したこともあるが、新たに大阪市による地盤の液状化対策工事を見込んだためだ。IR施設の建設に6年かかるとしていた工期を半年ほど縮めているが、開業は最速の場合でも30年秋としている。



 大阪市の地盤改良工事は液状化対策だけでは済まない。カジノ施設建設予定地は軟弱地盤が広がり、高層建築物の基礎にできるような地盤が見当たらないのだ。大阪府市IR推進局が5年前(18年)に3か所でボーリング調査を行なっている。地下90bまで調査した2か所では、地表から50b付近に固い層が5b程度あり、その下は80b付近まで固い層はない。3か所目は地表から9b付近で調査をやめている。夢洲全体で100か所以上のボーリングデータがあるが、地盤の状況はどれも似たり寄ったりだ。

 IR予定地は、海や河川の浚渫土(しゅんせつど)で埋め立てた工区で、数年前までは干潟のような土地だった。土中の水を排水する工法により、地表数bは固くなった。どこまで大阪市が地盤改良工事を行うのか、工法も範囲も明らかではない。液状化対策や土壌汚染対策などで790億円の支出を公表した大阪市だが、この他に必要となる軟弱地盤対策の工事費はいくらかかるかわからない。


いつでも「撤退」の構え

 カジノ事業者はどう見ているのか。推進本部会議に提出された資料に「事業者の見解」が記されている。「事業前提条件が成就していないものと判断」。予定建築物の基礎地盤ができるのかどうかもあやしい。今の状況では事業ができないと言っている。

 大阪府市は、この言い分を認め、「事業解除権」を実施協定に加えることで、カジノ事業者をつなぎとめた。26年9月末日までに事業前提条件7項目が満たされなければ、事業者は撤退できることにした。

 7項目の1つに、カジノ事業に「悪影響を与える土地・土壌問題が生じてないこと」がある。土地・土壌問題とは「地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれに限らない」。なんと、土地に係る不都合はなんでも契約解除の理由にできるということだ。

 明らかに主導権はカジノ事業者にある。条件を満たすまで行政はカネを出せという要求を大阪府市はのんだ。「税金は1円も使いません」と宣伝してきた維新。吉村洋文大阪府知事、横山英幸大阪市長のコンビが出席した会議で、この協定案を確認したのだ。

 カジノ事業費(初期投資額)も建設資材価格の高騰を踏まえ1900億円増額、約1兆2700億円となっている。カジノ事業者となる大阪IR株式会社の中核株主、合同会社日本MGMとオリックス株式会社が追加増資する。ビジネスである以上、採算が取れなければ「撤退」する。建設途上で止まったビルの無残な姿をさらす可能性は否定できない。


市民との対話が条件

 工期や事業費の変更は、整備計画の変更にあたり、認定のとり直しとなる。その際、当初認定時についた7つの条件の履行状況も問われなければならない。

 地域経済への効果について「精緻化」することやカジノ事業の収益を非カジノ事業へ投資することなどは、違法賭博を「合法化」する大義名分にあたるものだ。いい加減ではすまされない。

 なにより重要な条件は「地域との十分な双方向の対話の場を設け、良好な関係構築に務めること」という点だ。大阪府市が地域住民への説明会をおざなりにしたことをとがめた。カジノを止める市民運動、請願運動が国交省への圧力となったのは間違いない。

 維新は、整備計画認定後1回だけ、形ばかりの説明会を開いたが、双方向の対話には程遠い。このままの状態で、整備計画の変更を認定させるわけにはいかない。実施協定案も当然、認可すべきでない。

   *  *  *

 夢洲カジノを止める大阪府民の会が10月8日、公聴会開催の準備をしている。通常、国会や行政機関が特定の案件について利害関係人や有識者の意見を聞いて、審議の参考にする制度とされる公聴会を、市民が開催する。地域経済や依存症、土壌問題の専門家や市民が公述し、国交省や大阪府市に説明を求める。

 本来、国や大阪府市が開催すべきものである。この公聴会に全面的に協力し、利害関係人や専門家の意見を聞くべきだ。

 大阪府市は9月中には実施協定の締結をしたいと言っているが到底無理なことだ。仮に実施協定の締結へと進んだとしても、カジノ事業者が免許を受ける必要がある。カジノ阻止にむけた攻めどころがいくつも残されている。カジノは必ず止まる。止めなければならない。
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