2023年09月29日 1790号

【読書室/なぜ市民は“座り込む”のか 基地の島・沖縄の実像、戦争の記憶/安田浩一著 朝日新聞出版 1700円(税込1870円)/沖縄を「笑う」者たちの悪意】

 米軍政下、「銃剣とブルドーザー」による土地の強奪で沖縄の米軍基地がつくられた。60年代後半、『一坪たりとも渡すまい』の歌を生み出した具志川村(現うるま市)昆布地区の土地接収反対の闘いは、米軍の暴力に屈せず座り続け歌い続けた。この昆布闘争5年目の71年7月、米軍が土地接収断念を表明し完全勝利した。沖縄はいくつもの闘いで、座り込むことで抵抗の強固な意思を示してきた。

 辺野古のゲート前では、人びとが路上に座り込み工事を遅らせようとする必死の抵抗が今も続く。しかしこれを揶揄するものがいる。

 座り込み行動が行われていない夕方にやってきて、「座り込み行動3011日」の看板を背に「誰もいません。座り込み0日にしたほうがよくない」とネットにピースサインと笑顔の写真を投稿したのが「ひろゆき」だ。反基地闘争を貶め笑いの対象としたのだ。

 普天間基地所属のヘリコプターの部品が落下した保育所には「自作自演」「反日」という嫌がらせ電話が相次いだ。園長は「外国の工作員」と排外主義むき出しのデマまで流された。基地被害を訴える者に対して「どうせプロ市民の自作自演」と嘲り笑い、誹謗中傷で押しつぶそうとする。

 著者は、「差別と偏見から発せられた『笑い』は、人を見下し、蔑み、正当な怒りを孤立化させる」「知識や論理を持たない人間が唯一、議論を終結させるに必要な醜悪な武器だ」と述べる。本書で著者が訴えたかったのは「笑うな」の一語に尽きる。「差別者の笑いだけは断固としてはねつけたい。その歪んだ口元を厳しく批判したい」と沖縄を笑う差別者の悪意を本書は暴いている。  (N)
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