2023年10月06日 1791号

【そごう・西武労働組合のストライキ 労働者の意思突きつけ市民に共感 資本の勝手放題許さず】

 そごう・西武労働組合は8月31日、西武池袋本店でストライキを決行し、同本店は終日全館休業となった。

 大手百貨店では61年ぶりのストライキ。ストの原因は、百貨店そごう・西武の持株会社であるセブン&アイ・ホールディングス(HD)が、そごう・西武の全株式を米投資ファンドに売却することに対し、労組が雇用の維持や事業の存続の確証がないまま進めることに反対したからだ。

1万人の人生がかかる

 組合員たちは同本店前で「ストライキ実施中 西武池袋本店を守ろう! 池袋の地に百貨店を残そう! これからもお客様と共に…」と書かれた横断幕を掲げ、「ただいま労働者の権利としてストライキをしています」とのチラシを配布、「西武池袋を守る活動をしています」と市民に声をかけた。ハンドマイクでは、そごう・西武の米投資ファンドへの売却をめぐり雇用継続や事業維持に確証が示されていないこと、本店1万人の従業員やその家族の人生がかかっていることを訴えた。立ち止まって聴き入る人や詰めかけた報道陣で同本店前の幅広い道路の半分が埋まった。組合員への差し入れや「頑張って」など激励の言葉が市民から寄せられ、共感を得ていた。

 その後の総勢300人のデモ行進には三越伊勢丹グループ労組、高島屋労組など「ライバル店」の組合員も連帯参加した。

 ストライキ実施に先立ち、テレビや新聞でも組合側の主張や、93・9%の高率でのストライキ権確立などが詳細に報道されたこともあって、ストライキは冷静に、また好意的に受け止められた。「従業員の方がとても心配で、雇用が守られるようにしてほしい」「働いている人たちがこういう形で意思表示をするのは大事なことだと思う。ストライキ自体も久しぶりで一石を投じたと思う」といった市民の声をメディアも伝えた。

 特筆すべきは、競合百貨店13社の労働組合が、そごう・西武の持ち株会社であるセブン&アイHDに雇用維持・事業継続に関する要請書を提出、そごう・西武労働組合への全面的な支持を表明し、団体交渉や記者会見、ストにも連帯して参加を継続していることだ。

 こうした産業別労働組合の共闘が生まれたのは、百貨店業界の経営難が共通するのに加え、持株会社による株式譲渡ということがどこでも起こり得るからだ。

労働者無視に声上げる

 会社の売却には大きく分けて「事業譲渡」と「株式譲渡」の2種類がある。事業譲渡とはA社がB社に対してA社の事業の一部を譲渡することをいう。その事業に従事している労働者からすると、雇用主がA社からB社に変わるので事業を譲り受けるB社は、その労働者との間で新たに労働契約を締結する必要がある。従って事業譲渡に際しては労働者の同意が前提となる。

 株式譲渡の場合は、A社の株主Cが他人Dに自分の保有する株式を譲渡する。事業譲渡と異なり、A社で働く労働者からすると、自分の雇用主はA社のままで変わらない。従って株式譲渡する場合労働者の同意を得ることは不要とされる。会社法上、「株式譲渡自由の原則」が定められており、CとDの間で株式譲渡契約が締結されてしまえばA社の意向に関係なく株式譲渡は成立してしまう。

 今回の場合、Aは百貨店そごう・西武、Cはセブン&アイ・HD、Dが米投資ファンドということになる。9月1日に、セブン&アイ・HDから米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに株式譲渡され、そごう・西武労働組合の意向が無視されて売却が進められてしまった。

 しかし、8月31日のストライキは、百貨店事業の存続と雇用維持を訴えるものであったが、メディアにも大きく取り上げられ世間の注目を浴びたことから、新たに株主となったフォートレスもこうした声を無視した運営は困難になっている。

 産業別労働組合の連帯行動や市民の共感を得た今回のストライキ。それは、たとえ「法的要件」でなくとも対象企業の労働者の意向を無視することは困難であること、それをストという実例で示した大きな意味のある闘いであった。



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