2023年10月06日 1791号

【未来への責任(383) 長生炭鉱の遺骨発掘・返還を】

 1942年2月3日朝、山口県長生(ちょうせい)炭鉱の坑口からおよそ1q付近の坑道の天盤崩壊で海水が浸入し、坑内労働者183人が犠牲になりました。うち136人は日本が植民地支配した朝鮮半島から強制連行された、あるいは生活苦から渡日を余儀なくされた朝鮮人でした。

 この事故は戦争遂行のために安全を度外視して石炭を掘り続け、「尊い命」が犠牲となった人災であると言わざるを得ません。今なお、183人の犠牲者全員の遺体は冷たい海の底に眠ったままです。海から突き出ている2本のピーヤ(写真 排気・排水筒)は、かつて、この山口県宇部市床波海岸の海に長生炭鉱という海底炭鉱があった名残です。

 私ども長生炭鉱の水非常(水没事故)を歴史に刻む会は「遺骨発掘・返還」に向け、来る12月8日に国と意見交換会を持ちます。直系ご遺族の高齢化も極限に達し逝去の報も増え、事故当時に母親のお腹にいて父親を知らず成長した娘、息子たちも81歳になり遺族にとって父親と対面できる時間はもはや残されていません。

 本年、日韓両政府は、「過去の植民地支配に対する痛切な反省と心からのお詫び」を表明した1998年「日韓共同宣言」を再度両国の共通認識としました。であればこそ、朝鮮半島出身者の「遺骨問題」の早期解決が今求められています。犠牲者は氏名も年齢も住所も家族も判明しているのにこれ以上放置することは、人道上からも許されません。戦争中に石炭産業で犠牲となったご遺骨を暗闇から発掘することは、どんな困難があろうとも日本政府の逃れられない責務です。

 政府は「遺骨の調査対象からはずすことはしない」としながら、技術と経費を理由に動こうとしません。私たちは「できない」ではなく、「どうしたらできるのか」を日本政府と具体的に詰めていきたいと願っています。現地を視察しないまま「できない」という政府の姿勢を改めさせましょう。この度の交渉には「韓国遺族会」も来日してその思いを訴えます。どうぞ、お一人でも多くの皆様が12月8日3時から会場(衆議院第1議員会館国際会議室)にかけつけてくださいますよう訴えます。

(長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会 共同代表 井上洋子)

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