2023年10月06日 1791号

【沖縄県知事が国連人権理事会で訴え/「国益を害する」と産経新聞/フェイクニュースで沖縄叩き】

 沖縄県の玉城デニー知事が国連人権理事会に出席し、「米軍基地が集中し、平和が脅かされ、意思決定への平等な参加が阻害されている沖縄の状況」を訴えた。この玉城演説を「国益を害する言動」と非難し、叩いているメディアがいる。察しのとおり産経新聞だ。

民意無視と批判

 玉城デニー知事は9月18日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で行われている人権理事会で演説し、名護市辺野古への米軍新基地建設反対を訴えた。沖縄県の知事が同理事会で演説するのは、2015年9月に翁長雄志前知事が都道府県知事として初めて演説して以来のことである。

 辺野古新基地建設工事をめぐる沖縄県と国との裁判で、最高裁は県側敗訴の判決を連続して言い渡した。そうした中、玉城知事は国連人権理事会に参加した。沖縄が抱える基地問題が人権や民主主義の普遍的な問題であることを国際世論に訴え、局面打開につなげたいとの考えからだ。

 玉城知事はまず、日本の国土面積の0・6%しかない沖縄に在日米軍基地の約7割が集中している状況を説明。「県民投票という民主主義の手続きにより明確に埋め立て反対の民意を示したのにもかかわらず、日本政府は貴重な海域を埋め立て、新基地建設を強行している」と批判した。

 台湾有事を口実に進められている沖縄の軍備増強については「周辺地域の緊張を高めることが懸念され、県民の平和を希求する思いと相いれない」と訴えた。そして「すべての人は、すべての人権が促進され保護され、かつ発展が十分に実現するような平和を享受する権利を有する」と定めた国連「平和への権利」が沖縄でも実現するよう、「関係政府による外交努力の強化」を要請した。

 同じ会議に出席していた日本政府代表部は、沖縄への米軍駐留には地政学的な理由と日本の安全保障上の必要性があり「差別的な意図に基づくものではない」と反論。「辺野古が唯一の解決策」と述べた。

中国を利すると攻撃

 辺野古裁判の不当性は何度も指摘してきた(1789号2面参照)。日本政府がどう弁解しようが、新基地建設を進めるために行政不服審査制度を悪用したことは明らかで、それに司法がお墨付きを与えたのである。こうした沖縄への仕打ちを玉城知事が人権・民主主義の問題と捉え、訴えるのは当然だろう。

 一方、右派メディアや政府御用文化人は、玉城知事の演説に激しくかみついている。その筆頭が「国益を害する言動やめよ」との社説(9/16)を掲げた産経新聞である。「国の方針を完全に否定するスピーチ」を国連の場で行うことは「言語道断」であり、「現実の脅威である中国政府の思う壺」だというのだ。

 那覇支局長の署名記事では「国連で訴えても何かが変わるとは思えない。政治パフォーマンスだ」(那覇市内の20代会社員)といった声を見出しに用いるなどして、「県民の意見は一枚岩ではない」と強調している(9/19)。特に若い世代では「国との対決姿勢を強める県に批判的な雰囲気が広がっている」とした。

人権侵害で儲け

 典型的な沖縄叩きの印象操作である。産経新聞の場合は捏造も平気でやらかす。実際、那覇支局発信の沖縄記事はフェイクニュースのオンパレードと言っても過言ではなく、裁判で何度も負けている。

 たとえば、産経新聞のネット記事で名誉を傷つけられたとして、宮古島市の元市議・石嶺香織さんが起こした裁判で、名誉毀損を認めた東京高裁の判決が9月21日までに確定した。記事は石嶺さんが県営住宅に不正入居したかのように報じたが、そのような事実は全くなかった。

 石嶺さんは宮古島への陸上自衛隊配備計画に反対する市民グループの共同代表として活動してきた。当該記事を書いた半沢尚久記者(当時那覇支局長)は、石嶺さん本人にまったく取材しないまま、彼女の発言まで「創作」していた。

 判決の確定を受け、産経新聞は同社のニュースサイトから問題の記事を削除した(9/19)。掲載から削除まで6年以上かかった。その間、石嶺さんは捏造記事の影響と思われる誹謗中傷に苦しめられてきた。

 「産経」の狙いは運動に打撃を与えることなので、裁判に負けても目的は果たしたことになる。しかも、ネトウヨが飛びつきそうな記事はページビュー稼ぎに大いに貢献した。人権侵害のデマを拡散し、大いに儲けたということだ。

 日本政府による米軍基地の押しつけを民主主義の問題として訴えた玉城知事を「反日」「中国の手先」と攻撃したり、「無意味」とあざける――沖縄の孤立化を狙った世論誘導に流されてはならない。  (M)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS