2023年10月06日 1791号

【読書室/女性不況サバイバル/竹信三恵子著 岩波新書 1000円(税込1100円)/極限状況を見えなくする仕掛け】

 女性不況≠ニは何か。コロナによる大規模な雇用喪失が女性を襲い、医療・介護の現場で過労死寸前の働き方を強いられ、家庭では育児や介護を担わされた。世界的なこうした状態は、女性を中心とした経済危機「シーセッション」(she〈彼女〉とrecession〈景気後退〉の複合語)と呼ばれ、女性不況と訳された。

 女性不況がもたらすものは、いっそうのジェンダー不平等にかぎらない。家計の縮小から消費需要の低下、さらに経済全体への悪影響を引き起こす。

 問題が可視化されれば社会問題化する。ところが、「日本社会がそうした対応を難しくする『壁』を抱えている」ため、問題を見えなくする「不可視化と沈黙」を生んだ。その典型が一斉休校措置であった。

 著者は「不可視化と沈黙」の仕掛けを6点に整理する。夫の扶養があれば「社会による支えが手薄でも問題にならない」とする「夫セーフティネット」が第1の仕掛けである。第2が、ケア(労働)の軽視。住民に寄り添う専門職の多くは女性が担っており、コロナの重圧がのしかかった。第3が「自由な働き方」としてキャバクラの女性やフリーランスは公的セーフティネットから遠ざけられた。第4が「労働移動」、第5が「世帯主主義」、第6が「強制帰国」である。

 だが一方、コロナ禍は、極限までの過酷な状況にもかかわらずそれを見えなくさせる「仕掛け」に気づき、これを押し返して生き延びるしかないと思い定めた女性たちを生み出した。著者は、最後にそうした実例と闘い方を示し、その「静かで新しい女性労働運動」は男性労働問題の核でもあると主張する。   (I)
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