2023年10月13日 1792号

【沖縄辺野古/「設計変更承認せよ」と国交大臣が強要/地方自治 民主主義を守る闘いを全国から】

 国土交通大臣は9月4日の最高裁判決を受け、沖縄県に対し、辺野古新基地建設工事の設計変更を10月4日までに承認せよと「是正指示」を出した。あたかも沖縄県玉城デニー知事が法を守ろうとしないかのような言い回しだが、むしろ政府の「是正指示」は法を踏みにじれと言っているのである。問われているのは政府の違法行為をどう止めるかだ。それは沖縄だけではなく、すべての市民、自治体の問題なのだ。

11月大浦湾着手狙う

 辺野古新基地建設工事の設計変更を不承認にした沖縄県に対し、国土交通大臣が9月28日、「是正指示」を通知した。10月4日までに「承認せよ」と言う。玉城デニー知事が「承認」しなければ、国交大臣は自分で「承認」ができるように、沖縄県を高裁に提訴する構えでいる。

 公有水面埋立法(公水法)に定めた知事の権限を奪い、政府(国交大臣)が政府(沖縄防衛局長)に承認を与えようとしている。どんな「理屈」でこんな好き勝手を正当化するのか。

 地方自治法(地自法)の悪用だ。1999年に国と地方自治体を対等とする改正(2000年施行)が行われたが、法定受託事務(国がすべき事務を地方自治体が行うよう法律で定めたもの)の場合、国が「代執行」できる規定が残された(第245条の8)。国交大臣はこの手順を使い、「勧告」(9/19)、「是正」(9/28)と沖縄県に迫っている。県が応じなければ、高等裁判所に「執行命令」を求め、高裁は15日以内に口頭弁論を開かなければならない(第5項)。政府は、10月20日までには裁判が始まると計算している。

 高裁が執行を命じてなお県が「承認」しなければ、国交大臣が「代執行」する。沖縄県は1週間以内に上告できるが、これによっても承認命令を止める「効力は生じない」(第10項)とされている。11月には大浦湾側の工事を始める―これが岸田政権の思い描くスケジュールだ。だが、そう思惑通りにはいかない。

法を犯せと「是正指示」

 公水法第4条第1項は、6つの項目に適合しない場合は免許(承認)を与えてはならないとしている。

 沖縄県は沖縄防衛局に何度も質問をし説明を求めても納得できる回答が得られず、不承認処分とした。特に第2号「環境保全及び災害防止について十分配慮していること」が確認できなかったからだ。たとえば、絶滅危惧種ジュゴンに及ぼす影響について「適切に情報が収集されておらず、よって適切な予測もできていない」。沖縄防衛局は何もしていないに等しい。

 災害防止でも、最も軟弱地盤が厚く、深い場所につくる護岸の基礎地盤の調査がされず、推測値で安全とする。国土交通省が示している「港湾基準」等に照らしても「十分配慮している」には適合しないのだ。

 「代執行」は知事が法の規定に違反している場合などに限られる。国交大臣は、環境破壊、造成地崩壊の恐れがある埋め立て工事をどのように審査し、「承認」するというのか。公水法(1921年制定)は73年に改正され、環境保全と災害防止の目的が加えられた経過がある。この趣旨を所管大臣である国交大臣が「代執行」までして自ら犯そうというのだ。

 憲法遵守義務を負う政府や国会議員などが憲法に違反するに等しい。断じて認めるわけにはいかない。


不承認堅持 承認撤回

 では、政府の違法行為をどう止めるか。沖縄県の設計変更不承認の判断は正当であり、断固堅持すべきである。そのうえで、当初の埋め立て承認そのものの撤回を行う必要がある。新基地は実現不可能な計画であり「国土利用上適正かつ合理的」(公水法第4条第1項1号)ではないからだ。

 2015年、翁長(おなが)雄志知事(当時)は仲井眞弘多前知事が行った埋め立て承認を取り消した。第三者委員会をつくり、審査過程を検証。弁護士3人、環境、海洋循環、サンゴなどの専門家3人の6人が半年以上かけた。その結果、公水法が求める承認基準について審査途上であったり、適合しないはずの判断が「適合」とされるなど、承認に至る過程に法的に誤りがあるとの結論にいたった。結局、最高裁は沖縄県の主張を認めず、県は取り消しを撤回したが、承認に至る誤りはそのまま残っている。

 さらに当時とは異なる事実が暴かれている。特に耐震設計のごまかしは大きい。発生する地震の大きさを意図的に過小評価した。そもそも飛行場をつくるのに空港基準ではなく港湾基準とし、基準を下げている。地質学や地盤工学、海洋土木の専門家も加え検証をする必要がある。震度3程度で崩壊するようなものを造らせてはならない。

 沖縄県が昨年提訴した国交大臣不承認取消裁決の抗告訴訟は、まだ一審の段階だ。最高裁判決(9/4)が判断を避けた国交大臣の公水法承認基準解釈の誤りをただすものになる。住民による抗告訴訟も続いている。諦めてはならない。

米国の了解はない

 もう一つ、米国政府がどう判断しているのかも重要な要素だ。2015年9月、地質調査業者が軟弱層の存在を確認し「工事計画の大幅な変更となり、事業への影響が増す」と記した報告書に「米軍は埋め立て地内の地盤沈下にもナーバスになっている」との記述があることが知られている。

 実際、米国連邦議会調査局は軟弱地盤改良の技術的問題を指摘し、米軍関係のシンクタンクである戦略問題研究所(CSIS)は基地建設が完了できるか疑問視している。

 普天間基地返還合意後、日米の技術検討会が設置され、移設先や工法(洋上、陸上案など)などを議題にしてきた。施設の安全性に関わる軟弱地盤対策について議論されていないはずがない。防衛省はSDCC(ジュゴン保護キャンペーンセンター)との交渉で、「米側に説明している」としか回答しなかった。公表できない重大な懸念を米側が示しているからに違いない。

 OEJP(沖縄環境正義プロジェクト)代表でSDCCの国際担当である吉川秀樹さんは9月11日、米情報公開法を使って米国防総省の見解を明らかにするよう要請した。重大な事実が暴かれる可能性がある。

 7月末に沖縄を訪れたDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)国際委員会ジェラルド・ダルボンさんがオンライン報告会を開催し、基地被害の実態、反基地の闘いを広める。米国内の関心の高まりは、米政府の対応を引き出すに違いない。

 追いつめられているのは日本政府・防衛省の方だ。玉城デニー知事を支える運動を全国からまき起こそう。辺野古新基地を阻止する闘いは、自治と民主主義を守り、なによりも戦争をさせない力を示すものだ。

   *  *  *

 「石垣の地方自治より日本の安全保障の方が大事だ」。保守論客の一人が基地反対に転じた自民党の石垣市議にこう言ったという(月刊誌『紙の爆弾』10月号)。石垣だけではない。「法の支配、自由と民主主義」「力による現状変更をゆるさない」を決めぜりふとする岸田政権だが、沖縄でやっていることは真逆ではないか。法をねじ曲げ、悪用し、民主主義を踏みにじり、力で埋め立て=現状変更する。「民主主義、地方自治より国策」なのだ。

 自公、維新の多数で野党を抑え込み、司法も抱き込んだ岸田政権は、三権を手にする独裁者と変わらない。

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