2023年10月20日 1793号

【沖縄辺野古 「代執行」訴訟へ/沖縄県への承認命令請求に理由なし/高裁は違法裁決を審理せよ】

 国土交通大臣は10月5日、福岡高等裁判所那覇支部に対し、沖縄県玉城デニー知事に辺野古設計変更の承認を命ずるよう求めた。埋め立て工事を続けるための「代執行」訴訟だ。岸田政権は環境を破壊し、民主主義を踏みにじってまで、沖縄・琉球弧の軍事要塞化の象徴ともいえる辺野古新基地建設をやめようとしない。平和と民主主義を守るため、一歩も譲れない闘いだ。

Q 辺野古新基地建設は進んでしまうのか。

 沖縄防衛局(沖防局)が軟弱地盤のある大浦湾を埋め立てるには、どうしても公有水面埋立法(公水法)の設計変更承認が必要だ。国土交通大臣は、玉城デニー沖縄県知事が最後まで辺野古埋め立ての設計変更を承認しないと想定して、自分が「承認」できるよう福岡高等裁判所那覇支部(福岡高裁)に提訴した。

 「代執行」は、地方自治法(地自法)に手順が定められている。今後どう推移するのか、見ておこう。

 国交大臣の提訴により、福岡高裁は15日以内に口頭弁論のため国と県を呼び出す。「国交大臣の請求に理由があると認めるとき」には、期限を定め知事に承認を命じる。裁判所の命令した期限内に知事が承認しなければ、国交大臣が知事に代わり、承認することができることになる。

 裁判の争点は、「大臣の請求に理由があるかどうか」だ。デニー知事は当然、請求には理由がないと主張する。国交大臣の裁決、是正指示は違法であり、取り消されるべきものだからだ。

 福岡高裁がこの審理をどれだけ慎重に行うかが焦点だ。政府は即日結審し、すぐさま命令を出すべきと言っている。しかし、国交大臣の裁決は違法無効とする県の主張が詳細に検討されたことはなかった。司法は本来の役割を果たし、重要な論点を無視することなく、審理をつくさなければならない。


Q すでに最高裁が判断していると言わないか。

 設計変更の不承認に関する裁判で最高裁が出した判決は9月4日のものが唯一だ。この判決は、争点となった国交大臣の裁決の違法性について判断をしていない。100人を超える行政法研究者が最高裁判決について声明を出している(9/273面参照)。そこでも「最高裁は、本件不承認処分が前記(公水法の)条項に違反してなされたものであるか否かを審査することなく」と指摘している。

 どういうことか。最高裁は、頭から国交大臣の裁決を正しいものとして扱っている。裁決は違法だという県の訴えは、上告「不受理」にし、判断をしなかった。

 国交大臣が間違った判断で、「知事に承認を命じる」よう請求してはいないか。公水法の承認基準について、県は「みたしていない」と判断したが、国交大臣は「みたしている」と判断した。どちらが正しいのか、裁判で明らかにしなければならない。

 そもそも沖縄県の不承認に文句をつけた沖防局と同じチーム(政府)の国交大臣が、審判役になって沖縄県にペナルティーを科すなど受け入れられるわけがない。身内に都合のいい判定ではないのかと疑われて当然だ。裁判所は中立、公平な立場で、判断しなければいけないはずだ。

Q 知事と大臣の判断はどう違っているのか。

 公水法の承認をするうえで重要な審査項目である護岸の安全性について、どう扱われているか見てみる。

 護岸の予定地で最も深い支持地盤、B27と呼ぶ地点で、沖防局は地盤の強度を測ることをせず、150bから750bも離れた3点のデータから類推して設計している。沖縄県は、調査すべきではないかとただしたが、「費用対効果」(カネにみあう成果は得られない)を理由に追加調査をしなかった。県は、これでは安全性が確認できないと不承認理由の一つにした。

 国交大臣は、追加調査は必要ないし、それを求めるのは「知事の裁量権の濫用」であり、違法行為だとした。これが、国交大臣の「不承認取り消し」裁決の根拠の一つになっている。県の主張が正しいのか、大臣の言い分が通るのか、最高裁は判断していない。

 埋め立て申請者が民間業者だったら、決して免許を与えない。国交大臣は杜撰(ずさん)な申請を認めないよう知事に助言すべき立場だ。なぜ沖防局の申請なら承認できるのか。徹底して明らかにしなければならない。

Q 「代執行」を止めた例はあるか。

 「代執行」訴訟は、地自法が国と地方自治体を対等とする改定がされた2000年からは、今回2度目だ。

 1度目は8年前の15年。翁長(おなが)雄志知事(当時)が仲井眞弘多前知事の承認を取り消し、国交大臣の取り消し裁決にも従わなかったため、国は訴訟を起こした。

 この時は、国交大臣が地自法に定められた手順もふまずに提訴したため、政府敗訴の可能性もあった。裁判所は「協議による解決」を求め和解提案。国、県とも提訴を取り下げたため、代執行には至らなかった。

 地自法改定以前、知事が国の出先機関とみなされていた時代には職務執行命令訴訟がある。

 国は軍用地利用のための契約を地主や市町村長が拒否した時には、知事に署名押印させた(駐留軍用地特別措置法)。1995年、国は代理署名の勧告や職務命令に従わなかった大田昌秀知事(当時)を提訴。知事は敗訴しても署名せず、橋本龍太郎首相(当時)が代執行した。

 大田知事が国に従わなかったのは、直前に起きた少女暴行事件に対する県民の怒りが噴出していたからだ。県民の圧倒的な支持により知事は国に立ち向かえた。

 玉城デニー知事はまさに国の不当な圧力に抗っている。その力の源は県民の7割が辺野古埋め立て反対を表明した県民投票だ。日本政府の暴走を止めるには沖縄県民だけでなく、全国、世界からの支援が必要だ。

   *  *  *

 沖縄県議会で「行政のトップである知事が最高裁判決を受け入れないことは、我が国の法律を全否定することだ」と島袋大(しまぶくろだい)自民党県議が声を張り上げた(9/6毎日)。

 待ってほしい。法律を否定するのは政府である。市民の権利利益の救済を目的とする行政不服審査法を悪用、誤用して地方自治を、沖縄の民意を押しつぶそうとしているではないか。公水法の審査基準もあってなき、ザル法にしてしまった。

 辺野古新基地建設は、世界で一番危険な普天間基地を一刻も早く撤去させるためのはずだ。仲井眞知事が13年に埋め立てを承認した時の条件「5年以内の普天間基地運用停止」はどうなった。すでに10年経った。今後も完成は見通せない。仮に辺野古が完成できたとしても、普天間基地の閉鎖にはまだ条件があって閉鎖できないと公言されている。市民をだますのは法以前の問題だ。

 辺野古は国の天然記念物ジュゴンや生物多様性に満ちた自然の宝庫だ。そんな所を破壊し、通常の地震で崩壊するかも知れない基地を数兆円もの税金を投入して建設する意味はあるのか。最も問われなければならないことだ。

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