2023年10月20日 1793号

【改定「活性化再生法」施行 道路・自動車偏重政策改め公共交通の復権を】

 公共交通機関のうち利用者の極端に少ない区間について、存廃を含めた交通事業者と地元との協議の場を国主導で設けることを柱とする改定「地域公共交通活性化再生法」が10月1日施行された。

JR西発言に地元反発

 改定法に基づく「特定線区再構築協議会」の設置をいち早く求めたのがJR西日本だ。中国山地を走る芸備線の備中神代(びっちゅうこうじろ) 岡山県新見〈にいみ〉市)―備後庄原(びんごしょうばら)(広島県庄原市)間が対象となる。

 JR西日本がこの区間の廃止の意向を持っていることは明らかだ。改定法成立直後の今年5月、國弘正治JR西日本兵庫支社長が、兵庫県知事らとの懇談の席上で「ノスタルジーではなく現実直視」の議論を求めると発言。鉄道維持を求める地元の意見を「ノスタルジー」と決めつけた。

 この発言に地元は激しく反発。丸山達也島根県知事は8月23日の記者会見で「地方を含め日本を鉄路で結ぶことがJRの存在意義であり、Japan Railwayという社名の由来だ。利用客の多い区間しかやりたくないのであればJ(ジャパン)を使う資格はない。JRは社名からジャパンを外せ」と批判した。協議会設置をにらんだ場外戦≠ヘすでに始まっている。

 JR東日本では津軽線(青森県)が廃止前提、久留里(くるり)線(千葉県)、米坂(よねさか)線(山形・新潟県)が存廃の前提を置かない形で協議会入りする可能性がある。これ以外の各社は模様眺めだ。

道路偏重に回帰する政府

 公共交通拡充を求める市民の声を無視し、自公政権は道路偏重政策への固執を続ける。道路整備に充てられる国家予算は1988年度に2兆円を突破して以降、2008年まで21年間、2兆円超えの状態が続いた。

 公共事業見直しを掲げた民主党政権の成立で、09年に1・6兆円と2兆円を割り込み、13年度に1・2兆円にまで低下するが、安倍政権成立で自公が政権復帰すると再び増え始める。20年度には2・1兆円と再び「大台回復」した。

 三好宏一・北海道教育大名誉教授(経済学、03年死去)は「国の金で自動車産業、建設業の利権のために道路をジャンジャン造る。北海道の場合、わざと道路を鉄道と並行させる。それが政策的に行われている」と自民党政権の道路偏重政策を批判する。国鉄分割民営化の過程で3分の1の路線が廃止となった北海道では、残った路線の3分の1が再び廃線の危機に瀕する。

環境に優しい公共交通

 貨物輸送の自動車から公共交通への転換(モーダルシフト)はもう30年以上提唱されているが、貨物輸送量に占める自動車のシェアは85年度が47・4%、19年度52・9%。トラック輸送依存はむしろ深まっている。

 コロナ禍を受け、国交省が設置した「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」では、鉄道輸送を使わない理由として「災害等による不通が多く、代替輸送ルートも確保されていない」を挙げる物流事業者が多かった。だがこれは社会資本である鉄道を利益優先の民間企業に委ねた結果、十分な災害対策投資が行われなかったからである。

 国鉄民営化による過少投資が「災害に弱い鉄道」を生んだ。その結果、自動車依存がさらに深まり、環境破壊も進んで災害が多発。災害に弱い鉄道からさらに利用者が離れ、採算が悪化して投資がさらに減少する。悪循環は今日なお続く。

「2024年問題」

 ところが、ここに来て潮目が変わりつつある。残業時間を罰則付きで年間960時間以内に制限する労働法制改正が19年に実施されたが、トラック業界には経過措置として実施が5年猶予されてきた。その猶予が24年に終わる。今でも人手不足のトラック業界の働き手がさらに不足し物流全体が崩壊する。「2024年問題」だ。

 一般的に運転手の拘束時間は輸送距離に比例する。運転手の待遇改善のためには、拘束時間の長い中長距離輸送から優先的にモーダルシフトを進め、トラックは最寄り駅と荷主や届け先との間の「ラスト・ワンマイル」の輸送だけを担う。運転手の労働時間が減っても賃金が減らないよう正規雇用化や賃上げも同時に進める。自動車中心から人にも環境にも優しい公共交通中心へ。政策転換は可能だ。

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS