2023年10月20日 1793号

【福島原発かながわ訴訟 控訴審が結審 判決は1月26日 "国に責任あり"は譲らない】

 避難者175人(当時)が原告となって提訴してから10年。控訴審まで51回の弁論を数えた「福島原発かながわ訴訟(第1陣)」は10月6日結審し、来年1月26日の判決が決まった。

 2019年2月の横浜地裁判決は、国と東京電力の責任を認め「ふるさと喪失慰謝料」も認めたが、損害賠償額(一人2万5千〜1485万円)を不服として控訴していたものだ。

 国に責任ありの最高裁判決を勝ち取る第2波の共同闘争として、この日は全国から原発関連訴訟の原告・支援者ら約170人がかけつけた。東京高裁前共同アピールに続き午後1時過ぎ、赤色と青色の激励旗に囲まれ、バンド演奏による『民衆の歌』に送られて賑やかな入廷行進が行われた。

 法廷では、黒澤知弘弁護団事務局長が事故当時の現地新聞から「原発爆発」「脱出か残るか」(2011年3月26日付)「収束、年内は絶望的」(同5月30日付)などの見出しが躍る映像を映し出した。「この状況下では、政府の避難指示があったかどうかに関わりなく避難を選択した相当性がある」と訴えた。

 国・東電の責任では、869年貞観(じょうがん)地震・津波の教訓が強調された。「08年には貞観津波は石巻・仙台平野で陸地3`まで遡上(そじょう)していたことがわかっていた。貞観地震・津波を教訓としていれば、敷地を超える津波の到来は予見でき対策もできた」と展開した。

 また、放射線の健康影響が改めて強調された。「国は広島・長崎を例に、疫学的に証明されていないというが、内部被ばくが考慮されていない」と批判。

 意見陳述に立ったいわき市から避難した原告の女性は「親子3人で100万円にもならない賠償金。区域外避難者の被害に見合った金額とはとても思えない」と訴えた。最後に村田弘(ひろむ)原告団長が意見陳述。12年間の悔しく辛い思い、怒りをにじませ、時には声を詰まらせながら弁論を終えた。

村田弘さん最終陳述要旨/被害は今も続き錯乱はよみがえる/次世代に語り継げる判決を

 56家族167名の原告に共通する想いの一端を述べさせていただく。私は現在80歳。原発事故当時、原発から16`の南相馬市小高(おだか)区に住んでいた。国の避難指示により、妻とネコと横浜市に避難し、現在も民間借家で避難生活を続けている。

 今年5月、GX脱炭素法が成立し、原子力基本法第5条には「原子力事故の発生を常に想定し…」とあった。「そうか。事故の発生を前提にして、今後、この国は進むのか」。言い知れぬ脱力感に襲われた。8月、ALPS処理汚染水が海に放出されたが、「この刺身、コリコリしてうまいね」と笑みを浮かべて食べる岸田首相。汚染水は30年以上も流し続けられるが「責任をもって対応する」と。どのように? その無責任さに言葉を失った。

 事故から間もなく13年。先日、浜通りの原告宅周辺を回ってきたが、横浜に帰ってからフラッシュバックし、精神が安定しなかった。

 「ばあちゃんが死んだ。火葬場があかないので、冷蔵庫でつくったペットボトルの氷で冷やしている…」と避難途中でかかってきた隣人の電話。「原発さえなかったら…」と牛舎の壁に書いて自死した酪農家。「お墓に避難します。ごめんなさい」と遺書を残した93歳のお婆さん。避難先の横浜で錯乱状態に陥ったことなどがよみがえってきた。

 忘れてほしくない。災害関連死2337人、原発事故を苦にした自死119人、子どもの甲状腺がん358人。今も避難者2万6808人。原子力緊急事態宣言は発令中で事故は終わっていない。被害は続いている。

 裁判所に通い始めてちょうど10年。8人の原告が亡くなった。法廷に通い続けたのは、これだけの事故を起こした責任を明確にし、被害に見合った償いをしてほしかったから。 

 昨年、被災地の実情を調査した国連人権理事会のヒメネスダマリ―特別報告者の報告が7月、人権理事会に提出された。原発事故避難者が国内避難民に該当すること、援護は国の責任であること、避難指示の有無などによる「区別」があってはならないことを明確に指摘した。国際社会の厳しい眼差しも直視すべきだ。

 私たちのふるさとは一変した。山に入ってキノコを採れない、川でアユを釣ることもできない。隣近所の人たちと、お煮しめを持ち寄って花見をすることもできない。町は空き地だらけで、相馬野馬追(そうまのまおい)の騎馬武者を見送った賑わいはない。

 本当の「復興」には、重すぎる負の遺産を、次の世代に引き継ぐことを覚悟せざるを得ない。

 乾いた法律論ではなく、事故の重大さと事実に基づいた判断を示していただきたい。私たち被害当事者だけでなく、子どもや孫の次世代に胸を張って語り継げる判決を心からお願いする。

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