2023年10月27日 1794号

【イスラエルによる虐殺許すな/パレスチナ ガザ地区に「報復戦争」しかける/70年以上の軍事占領をやめよ】

 なぜこれほどまでに「人殺し」に対する抑制が効かなくなってしまったのか。パレスチナ・ガザ地区を統治するイスラム主義組織ハマスによるイスラエルへの攻撃とそれに対する「報復」により、既に4200人を超える人びとが殺されている(10/16)。地区内約220万人の人びとは、水も食糧も断たれ、命の危険に直面している。政治権力を握る者たちの誤った政策選択により、犠牲になるのは常に市民だ。殺し合いをやめよ。欧米諸国はイスラエルの「報復」を支援するな。イスラエルは70年以上にわたる暴力的占領を直ちにやめよ。

「報復戦争」の口実

 2007年以来、パレスチナのガザ地区に追いやられたイスラム主義組織ハマス(イスラム抵抗運動)は10月7日、イスラエルの中心都市テルアビブなどを無差別攻撃。特殊部隊が侵入し、兵士を捕虜にした。市民まで殺害、人質にした。どんな理由であれ、許されるものではない。

 イスラエルはすぐさま「報復」攻撃に出た。6日間で6000発のミサイル。ガザ市街地を無差別空爆した。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「空爆は始まりに過ぎない」と語った。

 「天井のない監獄」と呼ばれるガザ。南北約50`b、東西約8`bの長方形の三辺を高さ6mのコンクリート壁などで囲まれている。燃料や食料などの物資を運ぶ出入口はイスラエルが支配している。イスラエルの国防相は「電気、食糧、水、ガスすべてを止める」と宣言し、「動物と戦っているのだ。それに見合った行動をとるに過ぎない」と付け加えた。ガザ地区の220万人を超える人びとは人間とみなされていないのだ。



 燃料の補給を断たれ自家発電もできない病院は医療機器が使えない。上水、下水の供給も処理もできず、食糧は底をつく。現地で人道支援活動をしている日本人は「ガザは今、地獄」と語り、「安全な場所などどこにもない」と訴えている。

 ハマスによる攻撃は、イスラエルの市民を犠牲にするだけではなかった。比較にならないほどの圧倒的な「報復」戦争の口実をイスラエルに与えたのだ。

たび重なる攻撃

 なぜハマスはこんな選択をしたのか。根本的理由は、国連の名によるパレスチナ分割(1947年)以来70年以上にわたるイスラエルによる暴力的占領支配からの解放が閉ざされたままだからだ。パレスチナに不利だった93年のオスロ合意(イスラエル、パレスチナの相互承認・イスラエルの占領地からの撤退などの和平合意)さえ履行されず、ハマスの武装闘争路線に「根拠」を与えてしまった。

 ガザは07年に包囲壁が建設(21年改築)され、08年には22日間にわたる無差別砲撃を受けた。死者は1400人以上にのぼった。12年にも82日間攻撃を受けた。14年には51日間の爆撃で、市民だけでなく国連職員も殺された。21年にも11日間にわたり攻撃された。07年からの犠牲者はすでに5000人を超えていた。現在の人口の約0・25%。日本の人口で言えば約25万人が殺されたことになる。

 ヨルダン川西岸地区では、イスラエル人入植者による攻撃が相次いでいた。9月末、ユダヤ教の宗教儀式を口実に、エルサレムのモスクへ数千人の入植者が押しかけた。軍や警察が礼拝に来るイスラム教徒の排除や拘束を繰り返した。今年に入って200人以上のパレスチナ人が殺されている。最悪の事態が起こっていた。


政権危機を「挽回」

 ネタニヤフ首相がいう「戦争準備状態」は、彼にとって好都合だ。ハマスの攻撃があるまで、ネタニヤフはイスラエル市民から総スカンを食っていた。複数の汚職疑惑とともに司法改悪の強行により、支持率は30%台に低下。連日、抗議行動も起こっていた。

 昨年11月の選挙後成立したネタニヤフ連合政権は、パレスチナ人の追放を主張する極右政党と連携するなど、「建国以来最も右翼的」な存在だった。この連立政権が推し進めたのが「司法改革」(最高裁は政府・閣僚の決定を無効とすることはできないとするなど)だ。行政府の違法行為を司法は止められない。これによりネタニヤフ自身の汚職捜査も打ち切りにすることができる。

 今年1月、法案が示されると、すぐさま抗議行動が起こった。強行採決された7月、数千人のデモ隊が国会近くの高速道路に集結。主要労組がゼネストを宣言するなど、全国に広がった。法案採決直前には35万人が抗議行動に参加した(8/9東京新聞社説)。

 崩壊寸前だったネタニヤフ政権は10月11日、司法改革で激しく対立してきた野党と挙国一致「戦時内閣」を樹立。ハマスとの「戦争」に専念することを国会が承認した。これで、ネタニヤフ政権は息を吹き返した。

 かつてネタニヤフは「パレスチナ国家の樹立を阻止したい者は誰でも、ハマスの強化とハマスへの送金を支持しなければならない」(19年3月)と語っている。パレスチナ自治政府を分裂させ、ハマスを武装闘争に追い込めば、イスラエルの暴力的占領支配が正当化できる。ハマスの利用価値は大きいということだ。

二重基準をやめろ

 こうした背景を知りつつ欧米主要国はいっせいにイスラエル支持、ハマス非難で声を揃えた。10月12日に開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議は「ハマスによるテロ攻撃を非難し、イスラエル国民との連帯を表明」した。同じ日、米国のブリンケン国務長官が、翌日にはオースティン国防長官やEUのフォンデアライエン欧州委員長もイスラエルを訪問。「イスラエルと共にある」と全面支援の姿勢を鮮明にしている。欧米の主要メディアは政府と歩調を合わせ、イスラエル支持の論調を強めている。

 ウクライナ戦争でロシアの国際法違反を糾弾しながら、イスラエルの70年以上にわたる国際法違反、違法占領を非難しないのは、あまりにも不公正ではないか。アラブ文学者岡真理(京都大学名誉教授)は「パレスチナに平和が実現しないのは『戦争』のせいではなく、『国際社会』のこの二重基準のせいにほかならない」と主張する(『世界』3月号)。欧米政府がいくら「法の支配」と言ったところで、自己都合に過ぎないということだ。

 岸田文雄首相も10月8日、いち早く「罪のない一般市民に多大な被害が出ており、強く非難する」とSNSにハマス非難を投稿。欧米諸国と同様、イスラエル支持の姿勢を明らかにしている。そこには、核武装した占領者に対する非難はない。国際法違反など気にも留めず、国連施設さえ攻撃の対象とするイスラエルの蛮行をただす政治権力者はいない。

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 パレスチナ問題は「暴力的抵抗」では決して解決しない。政治権力者の二重基準に対し公正を求める世界の人びとが、イスラエルの不当な軍事占領に対する抗議行動を展開している。「パレスチナに自由を」「イスラエルは占領地から撤退せよ」。命を守り、パレスチナを孤立させない国際的連帯行動が、今まで以上に問われている。

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