2023年10月27日 1794号

【ジャニーズ会見は茶番劇だが…/総理の会見はもっと酷い/NGリスト不要の官製八百長】

 創業者による性的虐待をめぐるジャニーズ事務所の会見が物議を醸している。「指名NG記者リスト」を作成するなどして、厳しい追及を逃れようとする姿勢は批判されて当然だ。しかし、そうしたインチキ記者会見が日本では日常化している。総理大臣の会見がまさにそうなのだ。

追及逃れの手口

 ジャニー喜多川元社長による性的虐待問題について、ジャニーズ事務所はこれまでに2回、記者会見を開いてきた。事務所側が講じたメディア対策の特徴を3点にまとめてみた。

 まずは「キーパーソン隠し」。社内事情を最も知る人物である最古参の元幹部(白波瀬傑(しらはせすぐる)・前副社長)は2回とも参加せず。10月2日の会見には、事業継承者で同社の全株式を保有する藤島ジュリー景子前社長も姿を見せなかった。

 次に「質問封じ」。特定の記者を指名しないようにするための顔写真付きNGリストを作成していた件だ。ジャニーズ事務所の説明によると、同リストは記者会見を仕切ったコンサルタント会社が作成したもので事務所は一切関与していないそうだが、常識ではありえない話である。

 「1社1問ルール」の設定も追及逃れのテクニックである。この「ルール」の下では、答弁があいまいであろうが支離滅裂であろうが、答えさえすればそれで終わりということになってしまう。発言の疑問点を追及し、真相に迫るためには再質問(更問い)が必要だが、それを封じ込んだ。

 そして「論点ずらし」である。批判の矛先が「ルール無視で騒ぐ横暴な記者」に向くように仕向けたのだ。

記者を悪者にする

 印象的な場面がある。指名されない記者から抗議の声が上がると、新会社の副社長に就任するタレントの井ノ原快彦がたしなめる発言をした。「この会見は小さな子どもたちも見ている。ルールを守っていく大人たちの姿を見せていきたいと思う。どうか落ち着いてお願いします」

 典型的なトーンポリシング(話し方のトーン〈Tone〉を取り締まる〈Policing〉という意味)である。相手の訴えの内容ではなく、言い方や態度を問題視して論点をずらし、訴えの妥当性を損なう手口だ。

 事務所側は東京新聞の望月衣塑子記者をさらし者にすることを狙っていた。右派に嫌われている彼女を炎上させ、自分たちの「弾除け」に使おうとしたのだろう。望月記者自身は「ヒステリックに怒鳴っている女をたしなめる“わかっている男”みたいな構図にしたわけです」と分析する。

 会見に参加していた記者の多くは、加害企業が勝手に設定したルールに従い、井ノ原発言に拍手を送った。産経新聞の記者に至っては「ルールを守れ」と望月記者を野次りまくっていた。御用記者が「空気を読まない」同業者を叩く―。ジャニーズ会見で唯一鮮明になったのは日本のメディアの劣化ぶりであった。

毎日が出来レース

 松野博一官房長官は10月5日、自分や岸田文雄首相の会見にNGリストは存在しないと語った。これに関しては言葉を補う必要がある。官邸では不都合な質問をする記者を排除する仕組みが確立しているのでNGリストなど不要である、ということだ。

 官邸での首相記者会見に参加できるのは、記者クラブ「内閣記者会」の常勤幹事社19社から1名ずつと他に29人。雑誌やフリーランスの記者も抽選に当たれば参加できるが、割り当ては10人ほど。参加する記者全員の座席表が事前に決められており、司会を務める内閣報道官はそれを見ながら質問者を指名する。

 雑誌やフリーの記者に質問の機会が与えられることはほとんどない。たとえば、日刊ゲンダイの記者は第二次安倍政権の発足以降、一度も指名されたことがない。常勤幹事社の中でも質問指名数には大きな格差がある。岸田首相の記者会見の場合、指名が最も多かったのは産経新聞で13回。続いてNHKが12回(7月末時点)。最も少ないのは東京新聞(中日新聞)とTBSの4回だった。

 質問は1人1問が原則とされ、回答が不十分でも再質問はできない。そもそも幹事社の質問内容は官邸報道室が事前集約している。記者が質問を始める前に、首相が手元の答弁原稿を探し出す一幕もあった。まさに出来レース。八百長の完成度という点ではジャニーズ会見の比ではない。

   *  *  *

 10月14日に行われた細田博之衆院議長の辞任会見でも、質問者や時間の制限が設けられた。今回はさすがに批判が殺到したが、普段は権力側のコントロールをメディアが受け入れている。国際NGOが選ぶ「報道の自由度ランキング」において、日本がG7各国の中でずっと最下位なのには理由があるのである。 (M)

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