2023年10月27日 1794号

【読書室/報道弾圧 言論の自由に命を賭けた記者たち/東京新聞外報部著 ちくま新書 920円(税込1012円)/世界の闘う記者たち、日本はどうか】

 権力がメディアの報道を統制しようとするとき、そこには市民に知られたくない真実が必ず隠されている。本書は、世界中で展開されている、まさに命を賭けて報道の自由を守ろうとするメデイアや民衆と、それを統制しようとする権力との攻防をレポートしている。

 フィリピンのドゥテルテ前大統領は、強権的な麻薬取り締まりで国民の支持≠得た。だがその実態は、罪のない多くの人びとや活動家の殺害という人権弾圧と民主主義の破壊であった。政権の弾圧を受けながらメディアは実態を報じ続けた。

 ロシアでは、プーチン政権に批判的な独立系メデイアがかねてから弾圧を受けてきた。ウクライナ侵攻開始により、メディア統制が強まり、侵攻に抗議するジャーナリストの多くが国外脱出を余儀なくされた。

 中国ではコロナ禍に対する当局の情報統制への批判が高まった。「報道の自由の有無は自分たちの命に直結する」とする民衆はSNSを駆使した正しい情報の入手と拡散を当局の弾圧を受けながらも継続している。

 王制国家のサウジアラビヤ、軍政下のミャンマーでは、記者の拘束や殺害が日常的に行われてきた。

 弾圧統制は、こうしたいわゆる「強権国家」に限らない。オーストラリアでは安全保障上の機密保護法が強化された。日本も同様だ。とりわけ安倍政権による秘密保護法制定や放送法を使った圧力強化とそれへのメディアの迎合は報道の自由を後退させ、「報道の自由度ランキング」G7最下位の実態は今も深刻だ。

 本書は商業新聞中では健闘している東京新聞外報部著だが、報道の自由への日本の報道機関自身の一層の努力を促している。(N)
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