2023年11月24日 1798号

【原発避難者集団訴訟は大詰め 高裁判決で「国の責任」断罪 避難者の納得できる賠償を】

 福島原発事故についての国・東京電力(以下、東電)の責任を問い賠償を求める避難者の集団訴訟は全国で32件、原告は約1万2千人に上る。その中心的ないくつかの裁判―控訴審が大詰めを迎えている。昨年6月17日、4訴訟(生業(なりわい)、群馬、千葉、愛媛)についての最高裁不当判決(多数意見)が出された。それを第1ラウンドとすれば最高裁第2ラウンドの舞台が整いつつある。

 11月22日の名古屋高裁判決(だまっちゃおれん愛知・岐阜訴訟)、12月22日、26日の東京高裁判決(千葉2陣訴訟、東京1陣訴訟)、来年1月17日仙台高裁判決(山形訴訟)、同26日東京高裁判決(かながわ1陣訴訟)と年末から年初にかけて5つの高裁判決が予定されており、すでに今年の3月10日に仙台高裁判決の出たいわき市民訴訟と合わせて最高裁での審理が予想されるのだ。

 主要な争点は、(1)国の責任が認められるかどうか、(2)避難指示区域外からの避難者への賠償額が底上げ(内外の格差是正)されるかどうか、という点にある。

下級審は拘束されない

 最高裁の不当判決が出て以降、岡山地裁判決、福島地裁判決、仙台高裁判決と最高裁判決に追随した「国に責任なし」の判決が続いている。だが、そもそも6・17最高裁判決は下級審が従うべき判例となるものではない。

 改めて判決(多数意見)の不当さをみよう。それは▽法令の趣旨(深刻な原子力災害が万が一≠ノも起こらないようにする)や国の規制権限不行使について判断を示していない▽高裁で確定した事実(津波対策としては防潮堤以外に防水化・水密化などの浸水対策があった等)を無視し防潮堤しかなかったと決めつける▽規制権限を行使しても想定よりも大きな津波が来たので浸水は防げなかった―という粗雑なものだ。

 これには原告側弁護団のみならず法律の専門家からも批判の声が上がっている。下級審との関係については「後続訴訟では、違法な手続(原審で認定された事実に基づかない判決、最高裁が事実認定を勝手にした判決)に基づく判断に拘束される必要はない」(いずれも長島光一・帝京大法学部講師)とされる。にもかかわらず忖度(そんたく)判決が続くのは裁判官の自己保身というほかない。

 各高裁に対し、最高裁不当判決の結論に追随せず良心に従い法に基づいて判断するよう求める世論を広げていく必要がある。

差別的区分を取り除け

 もう一つの争点は、避難指示区域内からの避難者と区域外からの避難者に対する賠償額の格差の是正である。昨年12月20日に原賠審(原子力損害賠償紛争審査会)から出された中間指針第5次追補は、中間指針を上回る損害認定をした高裁判決を踏まえ「ふるさと喪失・変容慰謝料」を認めるなどの前進面もあったが、避難指示区域内外の格差是正には手をつけなかった。

 理不尽なこの格差については、当事者だけがおかしいと言っているわけではない。昨秋調査のために来日した国連の国内避難民の権利に関する特別報告者セシリア・ヒメネス=ダマリーさんは調査の結果を報告書にまとめて人権理事会に提出した。そのセシリアさんがヒューライツ大阪の雑誌『国際人権ひろば』に「国際社会からみた福島『避難者』に対する日本政府の対応」という文章を寄稿した(HP参照)。これは本人による報告書の要約である。



 そこには「避難指示であるのか、あるいは原発事故の影響に対する恐怖によるものなのかを問わず、すべて同じ権利を有する国内避難民である」「すべての行政的および法的施策とその実施において、いわゆる『強制避難者』と『自主避難者』との間における差別的区分を完全に取り除くことを強く勧告する」とある。

 政府は「双方に対して継続した支援を提供している」などと反論≠オているが、実際には明確な格差が存在する。政府が、国内避難民の権利を定めた国際人権法を踏み外している以上、それを正すのも司法の役割だ。

 高裁は、差別的区分に縛られず、被害の実態を踏まえて損害を認定し、それに見合う賠償額を認定すべきだ。福島県の避難者に対する住宅追い出し裁判が国際人権法に反する行為であることは言うまでもない。

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS