2023年11月24日 1798号

【コラム見・聞・感/加速する公共交通崩壊と今後を考える新刊】

 公共交通の崩壊が全国各地で加速している。バスの廃止、減便、終便繰り上げなどのニュースは毎日のようにどこかで聞くようになった。

 バスの廃止なんて、どこの限界集落の話かと思っている読者もいるかもしれない。だが、大阪の富田林市など南河内4市町村を走る金剛バスが経営破綻し、車を持たない住民は移動の足を奪われ放り出されようとしている。本紙1792号「議会を変える」で山本よし子大阪・茨木市議が地元の事例を報告しているように、最近は大都市の周辺部にまで及んでいる。ニュースにならないだけで、過疎地のバスも廃止は続いている。

 トラック輸送も危機的状況にある。2019年の労働法制改定の際、適用が5年間猶予されてきた建設・物流業界にもいよいよ来年から「年間残業時間960時間制限」が適用になる。運転手を死ぬまでこき使う≠アとができなくなる以上、いくら利用客がいて運んでくれと求めても断るしかなくなる。最近ようやくクローズアップされ始めた2024年問題だ。

 公共交通が危機的状況にあることを、実は政府は早い段階で認識していた。国土交通省が2008年にまとめた「有識者検討会」報告書には、7年後(2015年)にトラック運転手が全国で15万人不足するとの試算がある。

 厚生労働省の「トラック輸送労働時間改善協議会」資料によれば、トラック運転手の有効求人倍率は全産業平均の2倍。他の業界に比べて2倍の人手不足≠ニいうことだ。原因もはっきりしている。同じ資料で、労働時間は全職業平均より約2割も長いのに、賃金は全産業平均より1割も低いことが示されている。

 今年8月、私は2024年問題対策について国交省を電話取材した。「自動運転など、将来に向けて対策を検討しています」と繰り返す国交省に「そんな5年、10年先のことではなく、来年4月に有効な策はあるのかと聞いているのだ」と追及すると、対策がないことを認めた。有識者報告書から15年もの間、国交省は何をしていたのか。

 そんな中、私も執筆に加わった『次世代へつなぐ地域の鉄道〜国交省検討会提言を批判する』(緑風出版)が10月に刊行された。公共交通をさらに新自由主義的に切り縮めるため10月に施行された改定「地域公共交通活性化再生法」を批判する新刊だ。ぜひご一読いただきたい。(水樹平和)
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