2023年11月24日 1798号

【シネマ観客席/愛国の告白―沈黙を破る・Part2―/監督・撮影・編集・製作 土井敏邦 2022年 170分/「倫理的な占領」などありえない】

 パレスチナ問題を長年取材してきたジャーナリストの土井敏邦さんが監督を務めたドキュメンタリー映画『愛国の告白―沈黙を破る・パート2』が、今日の情勢にかんがみ、各地で再上映されている。イスラエル軍の元兵士たちが告発する占領の実態とは。

元イスラエル兵の告発

 「パレスチナ人に対する完全な軍事支配が(イスラエルの)国家プロジェクトなのです。入植地建設を進める限り、これは『安全保障』とは関係のない『植民地プロジェクト』だと証明しているのです。何百万人ものパレスチナ人の喉を踏みながらイスラエルの安全と安定と平和を得られると考えるなら、それは正気ではありません」

 イスラエルのNGO「沈黙を破る」の創設者であるユダ・シャウールはこう語る。「沈黙を破る」は元イスラエル兵の青年たちが組織したグループで、同国によるパレスチナ占領の実態を証言し、告発する活動を続けている。

 シャウール自身はヨルダン川西岸の都市ヘブロンで、ユダヤ人入植者を防衛する任務に就いていた。パレスチナ人弾圧の最前線にいたということだ。その体験を語り始めたのは、軍事占領が兵士個人の道徳心や倫理観を壊し、イスラエル社会そのものを崩壊させるとの危機感を抱いたからだ。

 「18歳の兵隊が自分の両親や祖父母ほどの年齢の人たちに指示する。出ていけ、身分証明書を見せろとか、指一本で思うまま。ある時点までくると、それが快感になっていくんです。その快感の中毒みたいになる。自分が“怪物”だったことに気づいたんです」

 2014年のガザ侵攻に参加した兵士は、司令官から「君たちを危険にさらしそうな距離にいる人物は誰でも射殺しろ」と命令されたという。「民間人かどうか確認する必要はない。戦場にいる者は誰でも敵だ」というのである。

 人間を人間と思わず、簡単に命を奪う―。こんな毎日を過ごしていたら、人権意識を失くしてしまうのは当然だ。除隊し一般市民に戻ったからといって、軍隊で叩きこまれた占領者意識は消えない。そうした戦争の毒は社会全体を蝕んでいく。極右やレイシストが政権を牛耳る今のイスラエルがまさにそうだ。

本当の「愛国」とは

 「沈黙を破る」は、兵士の証言映像や写真で占領の実相を伝える展覧会を各地で開催。メンバーが案内役となり、占領地のツアーも実施した。2014年のガザ侵攻の際には、作戦に加わった元将兵の証言集を出版し、破壊と虐殺の実態を国内外に伝えた。

 政府や右派勢力、メディアの反発はすさまじかった。メンバーは「裏切り者」と糾弾され、暴行や事務所への放火未遂など物理的な攻撃にもさらされた。学校など公共の施設で講演することを禁止され、集会を行うことも難しくなった。

 「それでも活動を続けるのはなぜか」。メンバーに対し、土井監督はくり返し問いかけてみた。女性兵士だったフリマ・ビブスの答えはこうだ。「自分の感性からして、ほかの選択肢はなかったでしょう。やらなければならないことですから。何年もかかる“種をまく”仕事です。話をする人が一人であっても、その人の心に種をまくのです」

 渉外責任者のアヒヤ・シャッツは「我々が払う“代価”は小さなものにすぎません」と言い切る。「パレスチナ人こそ実際の犠牲者です。彼らはもっとひどい暴力に苦しんでいます。私たちは自分のためではなく、さらに大きなもののために闘っているのです」

 占領という自国の加害と向き合い、それを告発し是正しようとする行為が「祖国への裏切り」なのか。それこそが真の「愛国」ではないのか―。映画の題名に「愛国」を使った意図を土井監督はこう語る。

日本への問いかけ

 本作が描き出したのは、「遠い中東の話」ではない。自国の加害行為、都合の悪い歴史を隠蔽し、この「美しい国」を愛せと叫ぶ政治家がのさばる今の日本は、イスラエルと同じ戦争国家の道を突き進んでいる。安倍晋三元首相がイスラエルを「真の友人」と呼んだのは、たんなる社交辞令ではないのだ。

 多くの住民を殺傷し、生活不能な状態に追い込みながら、ガザ侵攻を「自衛権の行使」と言い張るイスラエル。欧米諸国や日本政府はこれを支持しつつ、人道的な配慮を求めている。これほど欺瞞的な話はない。

 「『倫理的な軍事占領』などありえないということです。この時代に軍隊が民間人を支配しているということ、それこそが残虐なのです」。「沈黙を破る」代表のアブネル・グバルヤフはこう指摘する。問題の根源は占領にある。この基本線を本作を通して確認してほしい。  (O)

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