2023年12月01日 1799号

【放射線防護の民主化フォーラム2023―2030/国連科学委員会を徹底批判/科学者 市民 被害者の連帯が力】

 11月3〜4日、福島市で「福島の経験を共有し、放射線の影響からの身の守り方≠市民の視点で問い直す」ための「放射線防護の民主化フォーラム2023―2030」(主催は慶應大商学部・濱岡教室、原子力市民委員会ら5団体が共催)が行われた。報告した医療問題研究会の林敬次医師に寄稿してもらった。

 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR〈アンスケア〉)は、国連の下で科学的な放射線の政策を決めるものではなく、実際は非科学的政策で原発推進派の利益を守っています。ここが評価した研究を基に国際放射線防護委員会(ICPR)が「勧告」を出し、各国政府が法律・指針などを作成します。勧告を根拠に、日本政府は被ばく100_シーベルト以下なら影響はないとし、年20_シーベルトも浴びる所に帰還せよなどの非人道的な施策を進めているのです。

 ICPRの総会・シンポジウムが11月6〜9日に東京で開催され、2030年に現在の勧告をさらに悪化させることが予想されます。今回のフォーラムは、それに対抗し、次回の勧告作成の根拠となるUNSCEARの2020/2021報告を市民の立場で科学的に見直すのが目的でした。

 福島原発事故以来、原発推進勢力の目標の一つは「人的な放射線障害は全くなし」とすることでした。そのために、▽放射線被曝量はとても少ない▽甲状腺がんは増えなかった▽妊婦と赤ちゃんたちにも害なし▽WHO(世界保健機関)が予測したその他の多くの障害もなし―と主張しているのがUNSCEARです。

 UNSCEARへの科学的批判は以下の方たちなどが行いました。物理学者の黒川眞一・高エネルギー加速器研究機構名誉教授が政府などの被ばく線量の測定方法が基本から全く外れていたこと、放射線生物学の本行(ほんぎょう)忠志・大阪大名誉教授が放射線被ばくに関して100以上の間違いがあること、疫学の津田敏秀・岡山大学大学院教授は甲状腺がんの増加と放射線量が明らかに相関し単なる発見しすぎとの「過剰診断」説には全く根拠がないことを報告しました。

 いずれも、国際的な放射線と医療・疫学の科学的な基本にのっとり、UNSCEARの説は全く科学に値しないことを立証するものでした。その他、福島県民健康調査の問題点など、数多くの研究者からUNSCEAR批判がされました。

赤ちゃんの被害を報告

 ただ、UNSCEARの「障害がなかった」に反論する、具体的な障害を証明した研究は、子どもの甲状腺がん以外はとても少ないのです。H・シュアプ、森国悦、私の「周産期死亡」が原発事故後増加したとの論文は、医療問題研究会・山本英彦医師らの甲状腺がん増加の論文と共にUNSCEARから非科学的な批判をされています。生まれた時の体重が2500c未満の「低出生体重児」増加の論文は、直接UNSCEAR批判をしているためか、無視されたようです。

 私は、主催者から、赤ちゃんの被害を証明した私たちの論文の内容とこの分野のUNSCEARの間違いを報告するように要請されました。周産期死亡が高汚染地域で15・6%、中汚染地域で6・8%増加、低出生体重児が高汚染地域で5・5%、中汚染地域で2・1%増加、1マイクロシーベルト/時間当たり11%も増加していることを示しました。また、UNSCEARが「障害なし」とする根拠論文のデータを分析し、実はこれは疫学・統計学の常識からはむしろ「増加あり」を示唆していることを指摘しました。

市民を守る勧告に

 研究者以外には、福島原発告訴団団長武藤類子さん、原発賠償京都訴訟原告共同代表福島敦子さん、311子ども甲状腺がん裁判弁護団長井戸謙一さん、同時に写真展を開催中の飛田晋秀さん、子ども脱被ばく裁判原告代表今野寿美雄さん、原爆被害者(黒い雨訴訟)や水俣病などに取り組む若者たち、などからの多くの連帯の報告がありました。

 ICPR勧告を市民を守るものに変革するためには、非科学的勧告により健康や様々な権利を奪われた市民との連帯が不可欠です。放射線障害の科学的評価を対置しなければ、被害者への補償も困難になります。

 今回のフォーラムは本当のことを言える多くの科学者と闘う被害者が一堂に会して、お互いの意見を述べ合い、共に励まし合う場でした。このフォーラムを受けて「放射線防護の民主化に向けた提言」がまとめられつつあります。

 今後、フォーラム参加の皆さんとのつながりを深め共に頑張りたいと考えています。



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