2023年12月08日 1800号

【米軍「普天間基地維持」を希望/「辺野古が唯一」は日本政府の大ウソ/「埋め立て」目的が“崩壊”】

 辺野古埋め立て変更申請不承認を巡り、那覇地方裁判所は11月15日、沖縄県が国土交通大臣の「取消裁決」の取り消しを求める訴えを却下した。政府の主張通りの判決だが、いま政府の言う辺野古新基地建設の建前そのものが大きく揺らぎ始めている。米軍幹部が表立って「普天間基地の継続使用」を言い出したのだ。司法は政府に追随せず、公正な審理をつくすべきだ。

「なりすまし」が始まり

 辺野古新基地建設を巡り政府と沖縄県が争った裁判は14件にのぼる。いまも係争中のものは3件。福岡高等裁判所那覇支部で12月20日に判決がでる「代執行」訴訟(原告は国)と11月14日に結審したサンゴ移植関与取消訴訟、そして那覇地方裁判所で同15日に判決がでた抗告訴訟だ。

 高裁段階の2件は地方自治法(地自法)、地裁は行政事件訴訟法(行訴法)を根拠とするものだが、一言で言えば、政府がいくつもの法をねじ曲げ、沖縄県の正当な行政処分を覆そうとする、その悪だくみを正す裁判である。

 そもそも裁判で何を争っているのかといえば、名護市辺野古浜、大浦湾の埋め立ての是非だ。共有財産である海を守るための公有水面埋立法(公水法)が例外的に埋め立てを認める、その条件を充たしているのかどうかが問われた。政府は充たしていると言い張るが、沖縄防衛局が申請した埋め立てやサンゴ移植の工事は、目的も設計も工事の方法も杜撰(ずさん)きわまりないものであった。沖縄県は条件を充たしていないと判断し、承認を与えなかった。

 公水法について行政間で異なる判断をした場合どうするか。本来、どちらに理があるのか司法に問うべきところを、政府は行政間の力関係で県の判断を覆そうとたくらんだのだ。問題はここから始まった。

 行政による市民の権利侵害を救済するための行政不服審査法(行審法)を沖縄防衛局(政府)が悪用し、審査請求。身内(政府)からの審査請求を国土交通大臣や農林水産大臣(政府)は第三者を装い、沖縄県の処分を取り消した。

 この政府のやり方を多くの行政法学者が「私人(市民)なりすまし」と非難した。総務大臣や知事経験がある片山善博は「窃用(せつよう)(他人の物を黙って使うこと)」と表現し「国のモラルハザード」だと痛烈に批判した。政府の横暴はこの「なりすまし」に始まる。これが一連の訴訟の根源的な問題だ。

違法な「国の関与」

 行審法で県の処分を取り消すだけでは、辺野古の海を埋め立てることはできない。政府は、地自法を使い、国の言いなりに「是正」するよう県への「関与」を強めた。しかし、地自法は違法な「国の関与」の取消訴訟を可能としている。沖縄県はその都度、「国の関与」取り消しを求めた。サンゴ移植関与取消訴訟も農水大臣の「是正指示」の取り消しを求めたものだ。

 ところが、行審法の「裁決」の取り消しは、地自法ではできず、行訴法になる。那覇地裁での抗告訴訟がそれにあたる。県の変更申請不承認を取り消した国交大臣の裁決を取り消すことを求めるもので、勝訴すれば、県の不承認処分の効力を復活させることができる。

 だが自治体には抗告訴訟の扉は固く閉ざされていた。那覇地裁の出した判決は「却下」。沖縄県には「訴えの資格なし」というのもだった。

 行訴法は「法律上の利益を有する者」しか抗告訴訟を起こせないとしている。裁決が取り消されても沖縄県が得る「法律上の利益」はないと司法は言うのだ。沖縄県が不承認処分の効力を取り戻し、「自治権の回復」の利益を得ると主張することを、認めないのだ。

揺らぐ「建前」

 「世界一危険」な普天間基地の早期閉鎖・返還の「唯一の解決策」―これが「辺野古新基地建設」を正当化する政府の建前だ。辺野古新基地をつくらなければ普天間基地は維持される―そんな脅迫じみた言い方で、沖縄県民に押し付けてきた。

 だが、辺野古に基地ができても他の条件次第で普天間基地は返還されない。2017年に稲田朋美防衛相(当時)が公言した。辺野古建設は普天間返還に直結しない以上、活断層、軟弱地盤の存在やジュゴンをはじめ豊かな生物多様性を有するなど埋め立てを避けるべき条件がそろった大浦湾での工事強行に説得力はない。司法は政府の主張を丸呑みすることなく、一から検証を行うべきだ。



 日本政府の建前を揺るがす重大な発言があった。11月7日、在沖米4軍が合同で開催した県内外のマスコミを対象としたメディアワークショップで、在沖米軍幹部が辺野古の「ネガティブポイント(難点)」を指摘し、「普天間基地を継続使用したい」と発言したのだ。

 辺野古の軍事的欠陥として挙げたのは、滑走路が1800b(有効1200b、両端300bはオーバーラン用)しかなく、2740bある普天間に比べ、離着陸できる航空機が制約を受けることだ。さらに、高台にある普天間に比べ周辺に高地がある辺野古ではレーダーの捕捉が悪いという。

「滑走路が沈む」基地

 滑走路の長さや背後の地形は当初から分かっていたことだ。在沖米軍幹部が今あえてこの点に触れ、普天間継続使用に言及したのは、大浦湾の軟弱地盤により辺野古は「(建設は)難しい」と考えているからだ。台風などによる工事中断を考慮しなくても完成は「早くて2037年」。まだ14年、それ以上先のこととの認識を示した。

 米国側からはこれまで辺野古新基地建設について懸念の表明はあった。連邦議会や政府監査院の中では、滑走路の長さ不足や軟弱地盤問題などが文書になっている。だが、軍関係機関の情報はなかった。日本政府も「米側に説明している」と言うだけで、米軍の回答を明らかにできなかった。

 今回、米軍が軟弱地盤対策に言及した意味は大きい。なぜ今「懸念」を公表したのか。技術基準に適合しない設計のまま、やみくもに工事を続けようとする日本政府に疑念が深まっている。辺野古は完成しない、しても「滑走路が沈む基地」を使う気はない。まさに「埋め立て」目的そのものが崩壊≠キる。日本政府の大ウソを暴きだすチャンスだ。



   *  *  *

 地自法が国と地方自治体の関係を対等と改めてから23年も経っているが、その理念は実現していない。だが、この時間以上に沖縄・辺野古では基地反対の闘いが継続してきた。政府の違法行為に抗い、民意を実現する闘いであった。サンゴ訴訟では、最高裁5人の判事のうち2人が沖縄県の主張を認める状況を生んだ。辺野古新基地問題は、平和構築の問題とともに自治権確立の問題として、全国に問いかけている。司法に公正な審理をさせるのは、市民の闘いの力なのだ。

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