2023年12月15日 1801号

【哲学世間話(39) 大学の軍事研究推進への法案】

 重要な対決法案審議の裏で、あまり注目されないままひそかに進められている危険な法案がある。「国立大学法人法改正案」である。

 法案は、東京大学など特に規模の大きい5大学に「運営方針会議」の設置を義務づけている。この会議は、学長と3人以上の委員から構成され、大学の中期計画や予算・決算を決め、学長に大学運営の改善を求めることができる。さらに、学長選考にも意見を述べることができる、実質上の最高決定機関である。

 委員として送り込まれるのは、文部科学省の天下り、財界人となるのは目に見えている。その委員の人選は文科省の承認が必要とされているので、政府・文科省の意にそぐわない委員が人選されたときには、文科省は拒否することができる。これは、日本学術会議の会員について5人の任命を拒否したのと同じ構図である。

 法案の狙いが、大学をより明確に政府と資本の管理下に置くことにあるのは明白である。このような動きは、大学の教育・研究の国際的競争力の強化を名目にこれまでも進められてきた。だが、大学を自らのコントロール下に置き、競争させることで活性化させようという路線は、もはや完全に破綻している。

 そもそも、膨大な軍事予算の膨張と対照的に、国立大学の予算は削られ続けてきた。その結果、最近では、トイレの洋式化等の改修工事の予算が足りないので費用をクラウドファンディングで集める(金沢大学)という、笑うに笑えないことさえ起こっている。

 法案に対し「稼げる大学を旗印にして国立大学の株式会社化を促進するものだ」という批判もある。たしかにそうである。だが、同時に見逃してはならないのは、法案が単に大学の「管理・運営面」だけでなく、「教育・研究面」で大学の自立性を侵害する危険性をはらんでいることである。

 この面の危惧は数多くあるが、一例を挙げれば、軍事研究分野の推進に拍車がかかることである。現状では、まだ多くの大学はこの分野の研究に公然と踏み込むことに慎重な態度をとっているが、「運営方針会議」によって、この歯止めがなくなることが危惧される。

 審議はまったく拙速に、強引に推進されている。法案は10月末に突如閣議決定され、11月20日には衆議院本会議で可決された。12月1日現在、参議院で審議中である。

  (筆者は元大学教員)
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