2023年12月15日 1801号

【パレスチナ民衆を実験台に/ハイテク軍事大国・イスラエル/軍事協力を進める日本政府】

 イスラエルはハイテク軍事産業で知られる武器輸出大国である。特に、パレスチナ人の弾圧で「実績」を重ねたサイバー監視技術は世界最先端と言われる。まさに戦争と人権抑圧で稼ぐ「死の商人国家」なのだが、そんなイスラエルに日本は急接近しているのだ。

武器見本市で祝杯

 今年3月、防衛省や経済産業省などが後援する国際武器見本市「DSEIジャパン」が千葉県の幕張メッセで行われた。日本での開催は2019年に続き2度目。日本政府が軍事費の大幅増額を決めたことを受け、国内外250社以上の企業が出店し、自社の兵器を熱心に売り込んだ。

 その様子を毎日新聞のネット記事(3/27付)が伝えている。会場の一角で祝杯を上げていたのはイスラエルの軍事企業エルビット・システムズ社の一団。日本企業2社(日本エヤークラフトサプライと伊藤忠アビエーション)との商談を成立させたのであった。

 エルビット社の主力商品は民生用・軍用双方に使える偵察用無人機「エルメス900」。攻撃も可能な自律型軍事ロボットの開発でも知られ、今回の見本市では遠隔操作で無人のまま砲撃できる「リモート・ウェポン・ステーション」などを展示していた。

 別のイスラエル企業スマートシューター社のブースでは、同社の小火器用射撃管制システムが人気を集めていた。この装置をライフル等に取りつければ、ずぶの素人でも80%以上の命中率になるという。

 イスラエルは稼ぎ頭である「テロ/サイバー攻撃対策システム」の売り込みに力を入れており、同国政府や企業が主催するセキュリティー関連機器の見本市を川崎市で行ったことがある(2018年8月)。

 日本にとってイスラエルとの関係は武器の購入にとどまらない。昨年8月、両国の防衛相が軍事協力を進める覚書に署名した。すでに防衛装備庁がイスラエルと無人偵察機を共同研究する準備を進めており、無人攻撃機や無人戦闘機を含めた共同開発を視野に入れているという。

 軍事侵攻や国際法違反の占領支配によって、パレスチナ民衆の生存権を踏みにじってきたイスラエル。日本はその共犯者なのだ。

最先端の監視技術

 イスラエルの軍事産業について基本的な事柄を押さえておこう(以下の記述は、フランスを拠点とするユダヤ人ジャーナリストであるシルヴァン・シペルの著作『イスラエルVS.ユダヤ人/中東版「アパルトヘイト」とハイテク軍事産業』を参考にした)。

 同国の軍事ビジネスに詳しいエイタイ・マック弁護士によると、イスラエルには他国と比べて優位な点が2つあるという。すなわち常態化した軍事行動とパレスチナ人の支配だ。これが兵器開発の実験場になっているというわけだ。

 たとえば、ヨルダン川西岸のパレスチナ難民キャンプに配備された遠隔操作のロボット銃である。前述のスマートシューター社が開発したもので、抗議行動に参加するパレスチナ人に向けて催涙ガスやスポンジ弾を発射することができる。



 世界の最先端をいくサイバー監視技術も占領支配によって培われたものだ。世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリは次のように述べている。「人工知能(AI)、ビッグデータ、ドローン、監視カメラを駆使して250万人のパレスチナ人を効率よく監視する。最先端のサイバー監視技術を持つイスラエルは、自国で実験した成果を世界中に輸出している」

 左翼・リベラル的な論調が特徴のイスラエル紙『ハアレツ』の調査報道によると、同国の軍事企業が開発したサイバー監視システムは100か国以上に輸出されている。近年、中東の湾岸諸国が相次いで導入し、独裁体制の維持、すなわち民主化運動の弾圧や政府に批判的なジャーナリストの監視に用いてきた。

世界中で弾圧の道具

 「世界で最も危険」と言われるスパイウェアがある。NSOグループの旗艦商品「ぺガサス」だ。携帯型端末上のあらゆるデータを抽出できる能力を持ち、しかも痕跡を残さない。端末のカメラを監視対象に気づかれず操作し、盗撮・盗聴することもできる。

 サウジアラビアの反体制ジャーナリストであるジャマル・カショギがサウジ当局の暗殺部隊によって殺害された事件(2018年)でも、ペガサスが情報収集に使われていたとの疑いが持たれている。

 パレスチナ民衆を実験台にして開発されたイスラエルの兵器は世界各国で人権抑圧の道具に使われている。日本政府はそのイスラエルと兵器の共同開発を進めようとしている。自分たちも「死の商人国家」になりたいということだ。 (M)
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