2023年12月22日 1802号

【医療労働者賃上げ抑制許すな 診療報酬マイナス改定で攻防 軍拡増税へ社会保障費削減狙う】

 軍拡増税とセットで社会保障費削減が狙われる中、来年度、医療・介護・障害福祉サービスの報酬が6年に1度の同時改定となる。その結果は、関連業種に限らず社会全体の賃上げに大きく影響を与え、市民の負担にも密接にかかわる。診療報酬などの動向に注意を払う必要がある。

 財務省の財政制度等審議会は11月20日、2024年度予算に向けて「予算編成等に関する建議」(以下、建議)を出した。診療所(病床を持たない、または病床19床以下)の経営をやり玉にあげて医療費抑制を打ち出し、「診療所の報酬単価について初診料・再診料を中心に引き下げ、診療報酬本体をマイナス改定」と提言した。診療報酬とは、医療行為への対価で、医師・看護師などの人件費や技術料等医療サービスにあたる診療報酬本体と、医薬品や医療材料の価格にあたる薬価等からなる。その本体部分を引き下げるというのだ。

 これに対し、日本医師会の松本吉郎会長が「医療・介護従事者への賃上げを行い、人材を確保することが不可欠であり、診療報酬の思い切ったプラス改定を行う他はない」(11/29日医on-line)と反論した。


建議の攻撃

 建議の主なものを紹介する。この間の診療所の報酬単価が物価上昇率を上回るペースで継続的に増加し、「収益(収入)の増加が費用の増加を上回り、経常利益率も7・4%から8・8%(2022年)へと上昇」している。だから「他産業とも比較して過度な経常利益率にならないよう報酬単価を引き下げる必要」と結論づける。つまり、診療所が儲けすぎなので報酬単価を引き下げて他産業との釣り合いを取れ、と言うのだ。

 では、報酬単価を引き下げたら、今社会的に求められている医療従事者の賃上げはどうするのか。建議は、特に医療法人の利益の蓄積である利益剰余金について、「…(1医療法人当たり1・05億円から1・24億円へと)約2割増加しており、この増加分だけでも、診療所における看護師等の現場従事者の3%の賃上げに必要な経費…の約14年分に相当」と説明する。こうした利益蓄積分を回せば、報酬を引き上げなくとも賃上げは可能と言うのだ。

 建議は、開業医の高収入に焦点を当てているが、他の医療従事者の賃金が高いわけではない。収益蓄積分がそのまま賃金に回る保証はなく、とりわけ看護助手などの賃金は他産業より約3割も低い。その賃上げのためには、国庫負担増と一体で診療報酬本体を引き上げなければならない。ところが、厚生労働省はこれを認めようとしない。

 それは、社会保障費自然増分の削減ありきのためだ。とはいえ医療現場の猛批判に、「政府は『本体』部分を引き上げる方向で調整」(12/13朝日)との動きもあるが、予断は許されない。

政府の応援団

 そうした政府の削減路線に応援団が出てきた。経済界と学者らで作る「令和臨調」が「将来も安心な日本の医療・介護を考える」という提言を12月1日に発表。そこでは「有効性や必要性の乏しくなった保険診療を選定療養(保険適用外の治療)に変更すべき」と指摘。そして、「挙げた施策の中で試算可能なものを実施するだけでも、少なくとも年間1兆円以上の社会保障費の圧縮が可能」と強調する。

 ここから見えるのは、診療報酬引き上げが社会保障費(国庫負担)の増加につながることへの警戒であり、医療従事者の賃上げなど全くかえりみない姿勢だ。

 岸田政権は、軍事費拡大への増税と「少子化対策のため」と銘打った負担増・増税に躍起となっている。高齢化に伴い今後も増加する社会保障費を削減するためにあらゆる方法を検討している。建議などはその狙いをあからさまにしたのだ。

 安心して暮らすには社会保障を充実させなければならない。その財源確保のために、まず軍事費の大幅削減、そして不公平税制の是正、過去最高益を更新し続ける大企業と富裕層への適正な課税が緊急に必要だ。

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