2023年12月29日 1803号

【福岡高裁那覇支部 沖縄県に変更承認命じる/「黙って国に従え」と自治権否定/知事を支える全国からの闘いを】

 米軍辺野古新基地建設をめぐり、福岡高等裁判所那覇支部(三浦隆志裁判長) は12月20日、沖縄県に対し、沖縄防衛局提出の埋め立て変更申請を承認するよう命じた。この判決は自治体の自治権強化の歩みを30年前に引き戻すものだ。政府は軍拡・戦争路線をかつてなく強め、強権的な性格をあらわにしている。その政権に迎合する判決だ。自治と民主主義を取り戻すためにも、辺野古新基地建設をはじめ政府の暴走を止める全国での闘いが問われている。


30年前に引き戻す反動判決

 福岡高裁那覇支部は、政府の主張通り埋め立て変更申請を「3日以内に承認せよ」と沖縄県に命じた。判決内容を不服とする玉城デニー知事は1週間以内に最高裁に上告することができる。だが、その場合でも高裁の執行命令の効力は消えない。知事が期限までに「承認」しなければ、知事に代わり国土交通大臣が承認書を交付する。政府はただちに大浦湾側の埋め立て工事をはじめる構えだ。

 政府の言い分を丸呑みした福岡高裁判決は、環境破壊や災害を引き起こす最悪の工事を認めただけでなく、重大な問題を含んでいる。

 それは、1993年「地方分権推進」の国会決議に始まる自治権強化の流れを引き戻すものという点だ。

 地方分権推進一括法により、国と地方自治体をそれまでの上下関係から対等な関係へと地方自治法が改定されたのは99年。それまで都道府県の知事には国の1地方機関としての立場があった。政府からの通達や指示に従って業務を行う「機関委任事務」をこなす役割だ。

 当初、地方自治法(47年制定)には明治憲法(政府が知事を任命する官選知事)の国・地方の上下関係が残っていた。それから50年以上経ってやっと対等な関係に改められた。それから約20年、今まさに対等な関係の内実が問われているのだ。

国 地方対等な関係めざす闘い

 対等な関係である国と地方自治体の判断が異なった場合はどうするのか。この点では、自治体は国に従うべき―この発想がいまだに残っている。「代執行」がその典型だ。

 国と地方の法解釈が異なるのであれば、最終的に司法の場で決着をつけることになる。司法が双方の主張を聞き、判断をする。今この最も必要とされる実質審理を司法は放棄し、国の側に立った。「国の言うことに従え」ということだ。対等な関係であるはずの国、地方の関係を旧態の上下関係へと引き戻す役割を今回の判決は果たしたのだ。

 政府は10月30日に開かれた「代執行」訴訟の弁論で「(県が最高裁判決に従わず)違法な事務遂行を続けていて代執行以外の手段はない。日本の安全保障と普天間基地の固定化の回避が達成できず、放置することで著しく公益を害することは明らかだ」と主張した。高裁判決はこれをなぞった。

 では沖縄県の「不承認」処分が、どんな法律に違反しているのか。国は「公有水面埋立法の要件を充たしているのに、承認しないのが違法。知事の職権濫用(らんよう)」と主張してきた。最高裁は国交大臣の是正指示は形式的に適法なのだから従えと判決した。だが、国交大臣に従わないことが「違法」とはならない。では「公有水面埋立法違反」なのか。司法は同法の承認要件について実質判断をさけている。「違反」内容を示していないのだ。

 「著しく公益を害する」点はどうか。「普天間基地の固定化」を放置しているのは日本政府の責任であって、沖縄県のせいではない。在沖米軍幹部が漏らしたように、辺野古基地ができても普天間基地継続の可能性は高い。

 国の提訴は「代執行」訴訟の要件を充たしていない。沖縄県が上告審である最高裁の場で、国の不法行為を徹底的に明らかにすることは、地方自治を守るうえで極めて重要な闘いだ。

埋め立て工事は止められる

 政府は大浦湾工事の早期着工をめざしている。既に沖縄防衛局は変更承認を前提に12月5日、施工業者と契約を結んだ。大浦湾側の外周護岸工事だ。護岸のタイプ別に4つの工区に分けて発注した。

 北端のA護岸と合わせ土質試験をしないまま設計したC1護岸を受注したのは大成建設・五洋建設・國場(こくば)組の共同企業体(JV)だ。海面下90bの軟弱地盤対策が必要なところだ。このJVは変更承認に先立ち大浦湾の埋め立て用土砂を辺野古側に仮置きする工事も行なっている。護岸の工期は28年3月となっているが、この工期では完成はできない。

 沖縄防衛局は埋め立て承認を得たからと言って、これらの工事を一気に進めることはできない。まず実施設計について沖縄県と事前協議を行わなければならない。「協議」である以上一方的な「通告」であってはならない。設計上の疑問に答える義務がある。

 また、8万群体を超えるサンゴを移植する必要がある。これまでの工事で移植された9群体の内7群体が死滅している。移植方法を根本から見直すべきだ。

 杭の打設に先立って海底堆積物の掻き乱しによる汚濁を防ぐために敷砂を施工することが必要だが、水深40bに対応できる専用工事船は日本に1隻。杜撰(ずさん)な投入で汚濁を引き起こす可能性がある。なによりも砂杭に使うものも含め400万立方bの海砂が必要となるが、この量は沖縄県の年間採取量の2〜3倍にもあたる。乱採取させない監視、規制が必要だ。

 いずれも、県の審査、行政指導、規制をクリアーしなければならない。県の権限を発揮できるところは、まだまだ残されている。

 次なる手、埋め立て承認そのものの撤回に向けた準備もできる。かつて翁長知事が承認取り消しの論拠とした様に、有識者による第三者委員会を設置し、検証を始めることだ。

 「裁判所の命令に従わない」と玉城知事への圧力は強まるに違いない。沖縄県民だけでなく、全国からの支援で政府の不当な圧力を跳ね返さなければならない。



   *  *  *

 地方自治法改正前(95年)、軍用地強制使用手続きに関して、機関委任事務であった代理署名を大田昌秀知事(当時)は拒否し、国は職務執行訴訟を起こした。この時に司法が示した言葉を、玉城知事は10月30日の弁論で引用している。「沖縄における米軍基地の現状、これに係る県民感情、沖縄県の将来を慮って本件署名等代行事務の執行を拒否したことは沖縄県における行政の最高責任者としてはやむを得ない選択であるとして理解できないことではない」

 今回、玉城知事は行政の責任者として県民の意志に従うことが「公益を守ること」であると主張した。これに判決は応えなかった。自治体の責任者の立場を国交大臣に「代行」させることなどあってはならない。沖縄では米軍基地だけでなく自衛隊基地が増強されている。今、自治を拡大、強化しようとすれば誤った「国策」と対峙しなければならない。司法の独立を守るためにもそうだ。日本の民主主義が問われている。

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