2023年12月29日 1803号

【山口・長生炭鉱事故 韓国の遺族会など国と意見交換 遺骨収集で前進も】

 「長生(ちょうせい)炭鉱の水非常(みずひじょう)」と呼ばれる事故は、山口県宇部市の長生海底炭鉱で太平洋戦争中の1942年に起きた水没事故。犠牲となった炭鉱夫ら183人中、136人が朝鮮半島出身者で、81年経った今も遺骸は海の底に放置されたままだ。

 12月8日、「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が呼びかけて衆院第一議員会館で政府(厚生労働省・外務省)と意見交換会を開催した。韓国遺族会や立憲民主党・共産党などの国会議員も参加し、一刻も早い調査・発掘を訴えた。

 厚労省からは人道調査室長が出席。これまで「見える遺骨しか調査しない」立場に固執してきたが、2時間にわたる議論の中で、炭鉱坑道等の具体的な調査の検討を行う方向で継続議論することを表明した。

 厚労省は毎年約1千万円の調査予算を組みながら、全国の遺骨の保管場所・状態の調査に伴う交通費や韓国への返還も含めた遺骨の運搬費に限定し、長生海底炭鉱の調査には充てていない。理由をただすと、「海底の構造などは把握しているが、ドローンを使っても200メートル以上の把握はむずかしく、遺骨の場を特定できない。(収集は)現実的に困難な話」と返答。

 刻む会の井上洋子共同代表は「潜水夫がピーヤ(排気・排水塔)内の状況を、電気探査機で坑道の状況を調べたが、空洞の存在は確認できている。ふさがった箇所に穴をあけ、そこから水中ドローンを入れて調査できる」と提案。会場には「まずやってみてから困難とか言いなさいよ」「厚労省のやる気次第だ」との声が飛び交った。

 大椿ゆうこ参院議員(社民党)は「『見える遺骨しか調査しない』とは、国会で決めたことでも日韓の合意事項でもないはずだ」と詰め寄り、厚労省の独自判断で決めたものでしかないことが明らかにされた。

時間がない 早く調査を

 司会の「戦没者遺骨を家族のもとへ連絡会」上田慶司さんが外務省に、「韓国政府(行政安全部)は今年9月、長生炭鉱遺骨問題の解決を日本政府に要請している。そのことからも、調査対象が『見える遺骨』だけというのは日韓協議で決まったことではないはず」と確かめると、「外交上の個別のやり取りは答えられない」と逃げる。一方で、「遺骨の返還に向けて日韓共同で進めることにしており、話を進めていくことに異存はない」と、今後の厚労省による調査の具体化には口を挟まなかった。

 最後に、井上共同代表は「強制連行・労働の問題として国に責任がある。遺族会が訴えるように、時間がない。早く調査を。事故から82年の来年の現地追悼集会に日本政府から弔意をいただきたい」と求めた。

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