2023年12月29日 1803号

【若者が前に出る311子ども甲状腺がん裁判 ついたてはずし 被害を訴え 市民の支援の輪を】

 若者7人が原発事故による甲状腺がん発症への損害賠償を東京電力に求めた裁判の第8回口頭弁論が12月6日、東京地裁であり、188人が傍聴抽選に並んだ。

 法廷では2人の原告が2度目の陳述に立った。今回はついたてをはずして顔を出し、正面を向いてはっきりとした口調で裁判官に訴えた(陳述要旨別掲)。

 原告側は黒川眞一・高エネルギー加速器研究機構名誉教授の意見書を提出。ヨウ素の実測値や甲状腺がんの多発などの事実を挙げ、被告が主張の拠り所とする「国連科学委員会(アンスケア)報告書」の誤りを指摘した。被告側は「アンスケアは…と言っている」と抽象的に繰り返すだけだ。

 報告会で井戸謙一弁護団長は「被告の主張は、福島の子どもは甲状腺に10_シーベルト以上被ばくしていない、100_シーベルト以下ではがんにならない、過剰診断によるといったもの。意見書への反論は非合理的で、実測データに対し、事故から半年経ったセシウム量を示し、ヨウ素のデータでは反論できない。総論は先が見えてきた。今後は各論にも入り、損害賠償の議論もしていく。口コミで闘いの輪を広げてほしい」と訴えた。

 黒川さんは「私たちが福島市紅葉山のデータから50_シーベルトと示したのに、被告は、ヨウ素の被ばく量データがないと認めながらシミュレーションからその100分の1の数値を出している」と批判した。原告の母親は「アンスケアは信用できない組織だとますますはっきりした。原告が納得できる裁判に」と呼びかける。

 この裁判闘争では若手弁護士が論戦の前面に立ち、集会運営等は若者が担う。支援者にも若者が目立つ。損害賠償京都訴訟の原告の女性は「初めて参加した。原告の皆さんの姿は明日の私かもしれない。被害を受けたみんなで一丸となって真実を明らかにしたい」。愛知県立大学の男子学生は「原告の陳述を実際に聞いて、今後は何か行動を起こさなければと思った。友人や家族に話し、世の中の関心を作っていきたい」。会場からは励ましの拍手が送られた。

 次回第9回は3月6日。

何のための検査か 何度手術するのか <原告5>

 去年の12月ごろ、あごのあたりにしこりを感じ、風邪もなかなか治らないので東京の病院で診てもらった。その後再発と言われて今年4月に全身麻酔でCT検査を受け、「あやしい。もう1回手術するかも」と言われた。9月には、最初に手術したところの右側のしこりの位置がよくないと、手術することになった。私は手術したらもうがん患者ではなくなると思っていた。

 ところがリンパを切り取った傷口が大きく広がり、首から体液が流れ出て慌てて東京の病院に行った。次手術するなら3回目になる。

 今は、事故当時何も考えずに一緒に遊んでいた友達のことが心配だ。公園や外で長時間話していたから。

 病気が見つかってからは健康調査ってありがたいなと思っていた。それで甲状腺がんがたくさん見つかっているのに、過剰診断で見つかっただけと言われる。では何のために検査しているのか、残念で複雑な気持ちだ。何回手術すればいいのか。もしかしてずっと続くのでは。今はとにかく終わってほしい。

人としての成長も 裁判に貢献できたら <原告6>

 がんが見つかったのは3回目の甲状腺検査で中学1年の時だった。書類に名前を書いている時、涙がボロボロ出た。細胞診で首に針が刺され、あまりもの激痛にどうしてこんな痛い目に遭わなければならないのかと思った。がんの告知を受けた時、体がどうなってしまうのだろうとただ不安だった。入院となると、学校に行けなくなる。その頃からなんだか自分が変わってしまったと思う。

 それから4年、がんが再発した。手術で甲状腺をすべて摘出。アイソトープ治療(内部から放射線を照射する治療)で薬を飲んだ後は私の体から放射線が出るので、看護師からは「近づかないでね」と言われ、暗い気持ちになった。のどのあたりが腫れて熱く呼吸がしづらくなり、線量を測ってみたら53マイクロシーベルト。もう二度とこの治療は受けたくない。

 今春大学生になり、環境や人間関係が大きく変わった。自分の行動に責任を持つようになり、人として成長していると感じる。裁判の原告として自覚を持つようになった。(汚染処理水)海洋放出のニュースを見ていると複雑な気持ちになる。今後長く続くだろうこの裁判に貢献できたらいいなと思っている。



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