2023年12月29日 1803号

【未来への責任(389) 「主権免除」否定した「慰安婦」判決】

 11月23日、ソウル高等法院は日本軍「慰安婦」訴訟(第2次)で、日本政府に被害者への賠償を命じる判決を出した。一審判決は「主権免除」(国家は他国の裁判権に服さない)を適用し日本政府を免責、被害者の請求を退けていた。二審判決は、この「主権免除」を否定したのである。日本政府は上告せず、判決は確定した。

 日本政府はこの判決を「国際法違反」と非難し、韓国政府に「適切な対応」を求めている。国際慣習法上の規則である「主権免除」を否定する判決であるから「国際法違反」だと言っている。

 しかし、「主権免除」は絶対ではない。例外はある。例えば、外交官が他国で引き起こした交通事故で、加害者側が「運転は主権行為」(?)などと主張し、「主権免除」を盾に被害者救済を免れるようなことは認められない。

 更に近年は、「人権例外」も主張されるようになった。(1)国際法上の強行規範(集団虐殺、強制連行、拷問の禁止等)に違反する国家の行為により重大な人権侵害が発生し、(2)国内裁判所が被害者の最後の救済手段となっている場合は「主権免除」よりも被害者の人権救済が法益として優先されるべき、という主張である。

 ナチス犯罪の被害者がギリシャ、イタリアで起こした訴訟では「主権免除」を否定し、ドイツ政府に被害者賠償を命じる判決が出された。

 これを踏襲したのが、2021年1月の「慰安婦」訴訟(第1次)のソウル地方法院判決である。この判決は、「主権免除」を否定し被害者救済を日本政府に命じた。これに続く判決がウクライナ、ブラジル等で出された。

 ウクライナでは、2014年の東部地域のロシア占領の際の戦死者遺族がロシアに賠償を求めた事件で、同最高裁が「ウクライナの主権を侵害する国の主権を主権免除によって保護する義務はない」としてロシアの主権免除を否定する判決を出した(2022年4月14日、『法律事務所のアーカイブ』「主権免除と人権をめぐる国際判例」より)。この判決を日本政府は「国際法違反」と言うのであろうか。

 重要なことは「主権免除」の壁を超えて、「慰安婦」被害者が韓国で訴訟を起こし原告勝訴で決着したという事実である。

 アジア女性基金でも、2015年「合意」に納得できず、なお自らの人権と尊厳の回復を求めている被害者がいる。それを無視して「不可逆的解決」を行ったと幕を引くことはあり得ない。

 被害者は単一の均質な集団ではない。どの被害者も「独自の個人」である。従って、その人権の回復に向けては勝手な予断ではなく、被害者の訴えに耳を傾け、個々人の選択を尊重しなければならない。これが「被害者中心アプローチ」だ。

 今こそ、日本政府自身が「適切な対応」とは何かを被害者に問い、それに応えるときである。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)
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