2023年12月29日 1803号

【読書室/なぜ日本は原発を止められないのか?/青木美希著 文春新書1100円(税込1210円)/原子力ムラとマスコミの大罪】

 著者は、北海タイムス、北海道新聞を経て、現在は大手紙の現役記者である。本書の最初で福島県漁協理事の証言を紹介する。「政府を擁護し、『海洋放出は安全だ』と言うジャーナリストと称する人たちが…漁業者に話を聞きに来るかといったら、絶対に来ない」

 現場を取材すれば汚染水問題が深刻なものであることに直面し、そのため政府を擁護する記事を書けないことに御用記者たちはうすうす気づいているのだろう。

 この構図は、政府や原発擁護側の記事にはバイアスがかかっていることも示す。御用学者もひどい。自分たちが通したい説を「科学的」と言い、通したくない説には「世界的には定説になっていない」とこじつけて排除する。データの裏付けがあっても無視するのだ。

 マスコミは、汚染水海洋放出がうまくいっているように報じる。被害に苦しむ人びとを忘れ、あるいはおおいかくし、岸田政権の原発回帰路線を側面援助する。

 汚染水の次は汚染土を全国に拡散させるもくろみだ。すでに新宿御苑の花壇や埼玉県所沢市で実証実験が行われている。汚染水を「処理水」と言い換えたように、政府もマスコミも汚染土を「除染土」という。

 原発政策は、政・官・業・学・マスコミを含む「原子力ムラ(=共同体)」で進められている。本書はこれらの関係者、被害者を取材し、実名で登場する彼らの声を軸に原発問題のありどころを明らかにする。

 著者は、現職を続けながらの本書の出版にどれほど規制がかかったかも述べる。「社名・肩書き」を表示しないことでようやく発行にこぎつけたのだ。「大手紙」が朝日新聞であるのはすぐわかるのだが。(I)
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