2024年02月09日 1808号

【イスラエルの歴史的敗北 きざむ/国際司法裁 ジェノサイド防止を命じる/全世界から即時停戦の圧力を】

 国連の常設機関である国際司法裁判所(ICJ)は1月26日、南アフリカが提訴したイスラエルのジェノサイド(集団殺害)条約違反について、仮保全措置を命じた。南アの主張が受け入れられた。多くの運動団体が「イスラエルの歴史的敗北」を歓迎したが、そのイスラエルにICJ命令や国際法を守らせるには、さらなる世界的圧力が不可欠だ。

「壊滅的状況がさらに悪化する」

 国際司法裁判所(ICJ)は南アが求めた9項目すべてを認めたわけではないが、「裁判所が最終決定を下す前に、回復不能な不利益が生じる現実的かつ差し迫った危険がある」と緊急性を認め仮保全措置命令を出した。ジェノサイドが進行しているとの認識が前提となった判断と言える。

 ICJが判断の根拠にしたのは、イスラエル高官の言動だ。ガザの完全封鎖≠命じたガラント国防相。ハマスを支持したガザ市民の責任だ≠ニしたヘルツォグ大統領などだ。この下で行われた軍事行動が何を生んだのか。

 国連事務総長の書簡「ガザに安全な場所はない」(12/6)や世界保健機構(WHO)が「妊産婦や新生児の死亡率が増加することが予想される」と指摘していることなど多くの国連機関の報告に基づいて、「ガザ地区における壊滅的な人道的状況は当裁判所が最終判断を下すまでにさらに悪化する深刻な危険がある」との認識を示した。

 その上で、イスラエルに対し「ジェノサイドにあたる行為を行わないこと、軍隊にジェノサイド行為をさせてはならないこと、扇動を防止し処罰すること、緊急に必要な人道支援を担保すること」を命じた。また「証拠の保全」や実施した措置について「1か月以内に報告すること」を義務付けた。

 イスラエルの「国を守るため」との主張は否定された。当然の判断だ。だが、この命令が実効性を持つかどうかは国際的な闘いにかかっている。多くの国が南アを支持しているものの、米英独はイスラエル擁護を表明し、日本も含め他のG7国は「中立」=実質擁護の立場であるからだ。

日本政府は協力関係を断ち切れ

 日本政府はICJの命令を踏まえ、ジェノサイドを進めるイスラエルとの協力関係を断ち切るべきだ。国際法違反を繰り返すイスラエルとの連携などあってはならない。

 日本は現在、イスラエルと科学技術(1995年)、航空(2000年)、投資(2017年)に関する協定をむすんでいる。自由貿易協定も締結に向けた準備を進めている。

 協定以外にも、省庁レベルで数々の覚書をかわしている。防衛省はイスラエル国防省との間で、19年に「防衛装備と技術に関する秘密情報保護の覚書」を締結し、軍事技術移転の障害を取り除いた。22年には来日したイスラエル国防大臣との会談で「両大臣は防衛装備・技術協力や軍種間協力を含め、協力を強化する」と合意し、「防衛交流に関する覚書」を結んだ。

 さらに、総務省は「サイバーセキュリティ分野における協力に関する覚書」(18年)、「情報通信技術・郵便分野における協力覚書」(23年)を結んでいる。イスラエルの得意とするサイバー関連技術を手に入れようというわけだ。サイバー技術は兵器システムときわめて密接な関係にある技術である。

 イスラエルとの連携・協力関係は、首相として2度もイスラエルを訪問(15年、18年)した安倍晋三政権下で加速したことは間違いない。日本の軍需産業育成や武器共同開発、武器輸出などに向けて、イスラエルは欠かすことができない「友好国」ということだ。

 ICJの仮保全措置命令には法的拘束力がある。命令を守らせるために、日本政府に「国際法違反のイスラエルと手を切れ」と迫ることは、日本の軍事化を止める上でも重要だ。

パレスチナ解放めざすBDS運動

 国際司法裁判所は04年にもイスラエルの分離壁(アパルトヘイト・ウォール)建設を国際法違反とする勧告的意見を国連に出している。イスラエルはそれを無視し分離壁の建設を進めたが、懲罰も制裁も何ら受けることはなかった。

 国連が機能しない中で、ICJ勧告後1年を機に、パレスチナの170を超える団体が世界に向け、イスラエルに対する「ボイコット(Boycott)、投資撤退(Divestment)、制裁(Sanctions)」を呼びかけた。イスラエルが▽占領と植民地化をやめ、分離壁を解体すること▽イスラエル内のパレスチナ人の基本的人権を認め、平等に扱うこと▽国連決議194号パレスチナ難民の帰還権を認めることを求め、パレスチナの自決権が承認されるまでBDS運動を続けると宣言した。

 BDS運動は世界各国で取り組まれている。この運動を主導しているのがヨルダン川西岸地区ラマラにあるパレスチナBDS全国委員会(BNC)だ。

 BNCは、イスラエルのすべての製品や企業を標的にするわけではなく、アパルトヘイトに加担する程度に応じ、戦略的に対象企業を選択している。優先順位をつけることがより効果的だとの判断だ。

 BDS運動は約20年になるが、事態は緊急性を増している。BNCはICJ命令を「イスラエルの歴史的敗北」と歓迎し、全世界でイスラエルに対する圧力を強化するよう草の根の市民運動を呼びかけた。

 実際、この緊急事態を前にしてBDS運動は一層の広がりを見せている。マレーシアでは、BNCのターゲットではなかったマクドナルドがボイコットの対象となった。イスラエルのマクドナルドフランチャイズ店がガザを攻撃しているイスラエル兵に無償で食事と飲物を提供したことがボイコットの理由だ。BNCもマクドナルドを対象に加えた。

国際法の裁きを生活の場から

 日本では、イスラエルの軍事企業エルビット・システムズと「戦略的協力覚書」(23年3月)を結んだ伊藤忠アビエーションとその100%の株を持つ伊藤忠商事がターゲットになっている。同じように伊藤忠が100%株主のアパレル会社エドウイン、筆頭株主の食肉加工会社プリマハムも対象だ。50%株主のファミリーマートでは、まず自社ブランド「ファミマル」製品のボイコットが呼びかけられている(日本におけるBDSガイドライン参照)。

 他にはセブンイレブン。イスラエル最大都市テルアビブに1号店を開いた。イスラエルのエレクトラ・コンシューマー・プロダクツと20年間のフランチャイズ契約を結んだ。23年10月からはイスラエル兵に50%割引サービスを開始している。

 イスラエル・サッカー協会のメインスポンサーであるプーマ、イスラエル軍にIT技術を供与しているヒューレットパッカードなど、市民が生活の場から運動に参加できる機会は多い。

 イスラエルのジェノサイドを止め、数々の国連決議や国際法を守らせなければならない。パレスチナに自由を実現するために、世界の市民が力を合わせる時だ。



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