2024年02月16日 1809号

【能登半島地震の被害は人災だ/初動の遅れ 過疎・高齢化に無策/人命軽視する軍事・開発優先政権】

 能登半島地震の被災者はいまだに困難な生活を強いられている。1か月経過しても、石川県では約1万人が300か所以上の一次避難所で過ごしている。岸田文雄首相は施政方針演説(1/30)で「復旧・復興支援本部」設置を表明したが、2024年度予算案でも予備費の積み増し修正を行う程度の策しか示さなかった。それは被災者のためではなく、政権延命のための策でしかない。

「1500億円パッケージ」

 岸田首相は1月30日の施政方針演説で「昨年末決めたばかりの24年度予算案の変更を決断し、一般予備費を1兆円に倍増した」と意気込んだ。元日に起きた能登半島地震の被災者支援に5000億円を充てるのだという。また、「私をトップにした『復旧・復興支援本部』を新たに設置する」と胸を張った。

 いまだ一次避難所で不自由な生活を続ける避難者が1万近くいる「応急救助」が続いている段階だが、「復旧・復興だ」と「先手」を打ったつもりなのだろう。

 政府が打ち出した「被災者の生活と生業(なりわい)支援のためのパッケージ」はどんなものか。

 生活再建に694億円。二次避難先の旅館・ホテルの利用額の基準を7000円から1万円に引き上げることや半壊家屋の解体も自己負担なしで行えるようにすることなどだが、これと言って新たな施策があるわけではない。

 生業再建には383億円。中小・小規模事業者に施設復旧費の4分の3補助することなど、結局は借金しやすくする程度のことだ。農林漁業者にも再建に向けた資金繰り支援であり、破損した貯蔵設備などの修繕費や撤去費の半分を補助する程度だ。観光復興支援では「北陸応援割」として1泊2万円を上限に50%を補助する。評判の良くない北陸新幹線開業(3/16)を当て込んで3月〜4月を使用期間とするなど、1か月後には観光客を受け入れられる状況になると政府は楽観視している。深刻な被災者の現実は目に入らないのだ。

 これに、インフラ整備などの災害復旧費475億円をあわせた「パッケージ」総額は1553億円。23年度の予備費の執行残は3000億円近くある。結局、24年度の予備費の上積み分5000億円は政策の裏付けがないままだ。仮に「決算余剰金」となれば「防衛力強化資金」に繰り入れることが出来るのだ。

初動の遅れは人災

 岸田首相は「後手、後手」との批判をかわすつもりだろうが、なんといっても、今回の震災対応は遅い。

 石川県の災害危機管理アドバイザーも務めた室崎益輝(よしてる)神戸大学名誉教授は「初動に人災の要素もある」とインタビューに応えている(1/14朝日デジタル)。室崎は現地を視察し「初動対応の遅れが気になった」という。自衛隊、警察、消防の派遣が小出しで、「国や県のトップがこの震災を過小評価してしまったのではないか」と指摘する。

 実際、岸田が現地視察したのは14日、地震発生から2週間が経っていた。石川県の馳浩知事も岸田に同行してその時初めて現地に入った。責任者としての自覚がないのか、他に優先すべきことがあったのか。(岸田も馳もパーティー券裏金犯罪の当事者だ。)

 室崎が指摘する自衛隊の災害出動態勢はどうだったか。熊本地震と比較するとその動員数の少なさが分かる。たとえば、熊本地震にも派遣された陸上自衛隊最大の第1空挺団(千葉県)は7日、米英独仏など7か国を招待し新年恒例のパラシュート降下訓練を実施していた。災害救助よりも諸外国との軍事演習、セレモニーを優先したのだ。当然、岸田首相の判断である。

人道優先のイタリア

 被災者支援は位置づけ次第で大きく変わるものだ。日本と同じ地震国であるイタリアについて、日本災害食学会誌(20年3月)に掲載された現地報告「イタリアの避難所における生活支援・食事支援の事例」を紹介する。

 イタリアでは、避難所はグラウンドなど広場に個別テントを設営する。同時に、キッチンカー、食堂用大型テント、トイレコンテナ、シャワー、ベッドが備えられる。これらの資材一式がパッケージとして、自治体やボランティア団体が安全でアクセスしやすい場所に備蓄している。災害発生後の設営は迅速にできる態勢がある。250〜300人規模の避難所を40〜60人で運営。その大半はボランティアだ。調理免許を取る訓練が毎年行われ、日頃から専門的な人材育成のシステムができている。





 イタリアでは「10年前に被災した橋が放置されている」との状況がある一方、避難所設営のスピード、その質は日本とは比べ物にならない。その理由をボランティア団体の職員は「当たり前だ。相手は人間なんだから」といとも簡単にこたえている。

 災害時、道路の復旧は早いに越したことはない。だが、「平時から箱物を優先する日本と人道を優先するイタリアの違い」が被災者支援の違いを生んでいるとレポートは指摘している。被災時でも日常と変わらない生活が送れるようにすることが支援の基本になっているのだ。

 23年5月15日、イタリア北部で洪水被害が発生した。死者15人、2万数千人が避難する事態になった。G7広島参加のため来日中だったイタリアのジョルジャ・メローニ首相は予定を切り上げ、20日には帰国。その足で被災地を訪問した。人道的支援が社会に根付いている国では当然の行動なのだろう。

地方切り捨ての人災

 岸田首相は今回の震災の厳しさとして「半島特有の道路事情による交通網の寸断。海底隆起や津波による海上輸送の途絶。インフラの甚大な損傷。地震に弱い木造家屋が散在する小さな集落の孤立。高齢者比率5割を超える地域社会への直撃」をあげている。

 まったく言い訳にもならない。「人口減少・高齢化対策」「地方創生」の政治課題に無策だったことを表明しただけだ。これらは、経済効率最優先の新自由主義政策が東京一極集中を加速させ、半島や離島、地方の生活を切り捨ててきた結果なのだ。

 人災は初動の立ち遅れだけではない。過疎・高齢化を踏まえた災害対策の計画が立てられていないこと、地方を切り捨てて来たこと、これらすべてが人災なのだ。

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 被災地復旧の促進、被災者支援の拡充が求められる中で、野党はもちろん、政権内部からも批判の声あがった。高市早苗経済安全保障担当相が万博開催延期、中止≠求めたのだ。岸田首相は「万博の延期、中止の必要は認識していない」(2/1衆院代表質問での答弁)。他にも民意を踏みにじる沖縄辺野古新基地建設1614億円を含む軍事費7・9兆円。この命・くらし軽視、大規模開発・軍事優先が人災を生む根本原因だ。

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