2024年02月23日 1810号

【重要土地規制法 広がり続ける「注視区域」/基地・原発 隠ぺいされる危険施設=^全国の反対運動への威圧狙う】

 政府は、軍事基地周辺で市民活動を公然と監視できる区域を次々に拡大している。重要土地規制法による「注視区域」を2022年12月以来3回にわたり指定、計399か所となった。すでに4回目の準備に入っており、最終的には600か所を想定している。国家が戦争を準備するとき、反対運動を未然に押さえ込むことを考えるものだ。規制区域の拡大は平和と民主主義の危機を一層深化させる。

全国600か所へ

 政府は、昨年12月、全国180か所に上る「注視区域」の指定を告示し、1月15日に施行した。そのうち46か所は「特別注視区域」とされた。東京では防衛省市ケ谷庁舎、府中基地。米軍関係は6施設。広島の広弾薬庫、秋月弾薬庫や福岡の板付飛行場等だ。愛媛の伊方原発もふくまれる。これまで3回(22年12月、23年7月、12月)の指定により、注視区域は全国31都道府県399か所、そのうち特別注視区域は115か所となった。

 さらに現在、4回目の指定に向け、184か所を候補に上げている。「注視区域」の指定には、関係行政機関の長と協議し、土地等利用状況審議会の意見を聞くことになっている。沖縄県では、昨年12月の意見照会に対し、1月31日に県が意見書を出した(2/1琉球新報)。他の自治体にも意見照会がなされているはずだが、出された意見も政府が選任する審議会で形式的に紹介されるに過ぎない。

 候補地として沖縄では嘉手納基地や普天間飛行場をはじめキャンプシュワブ・辺野古弾薬庫などの米軍基地と自衛隊那覇駐屯地や軍民共用の那覇空港、名護海上保安署など31か所があがっている。しかし、候補施設の中には「米軍の保養施設(ゴルフコース)」など、法が定める重要施設とは無縁の施設も含まれている。「対象施設は必要最小限に」とする法を守っていないことは明白だ。沖縄では、すでに指定がされた離島を中心とする39か所を加え、規制の対象はほぼ全県にわたり、極めて広範囲に及ぶことになる。

調査・規制を合法化

 区域指定の根拠となる「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」。政府は「重要土地等調査法」の略称を使っているが、正体を隠す意図が透けて見える。狙いは一般的な調査ではなく、規制にあるからだ(調査そのものも威圧効果を発揮する)。

 規制の仕組みはこうだ。まず対象となる「重要施設」を定める。米軍・自衛隊の軍事基地の他、海上保安庁の施設、原子力発電所。この施設の周辺およそ1`bの範囲を「注視区域」と指定する。

 「注視区域」内では、政府が土地の使用目的が「基地機能を阻害するおそれあり」と判断すれば、使用不可などの勧告をだすことが出来る。これに従わなければ、2年以下の懲役もしくは2百万円以下の罰金、またはその両方が科せられる。この量刑は暴行罪(罰金の上限は30万円)以上の重さだ。

 さらに「重要施設」の内、特に重要な施設(司令部など)を「特定重要施設」、その周辺を「特別注視区域」とする。この区域では、200平方b以上の土地の売買をする場合、予約の段階から事前の届出義務が課せられる。売買契約後2週間以内に届け出ないと、6か月以下の懲役または百万円以下の罰金刑に処せられる。

交友関係まで調査

 そもそも、政府はどんな行為を規制しようというのか。基本方針に「基地機能阻害行為」の類型について例を示している。「自衛隊等の航空機の離着陸の妨げとなる工作物の設置」「レーダーの運用の妨げになる工作物の設置」などだ。

 「注視区域」内の土地にこうした工作物を作ることを防ごうということなのだが、航空機の離着陸を妨げるような工作物は航空法により設置できない。妨害電波は電波法で取り締まれる。

 既存の法律で対応できるものをなぜあえて立法化したのか。行為の規制ではなく、住民監視を「合法化」することに意味があるからだ。自衛隊はこれまでも市民活動を監視してきた。17年前の07年、自衛隊のイラク派遣に反対する市民の活動などを陸上自衛隊情報保全隊(当時)が情報収集していたことが暴露された。集めた情報は、集会の人数や発言内容だけでなかった。イラク反戦とは無関係に、個人の交友関係や私生活上の情報なども収集していた。

 市民が起こした裁判では一、二審とも「違法監視」と認定された。国は上告を断念し判決は確定。諜報活動の実態が知られるのをおそれたのだろう。

 自衛隊のスパイ活動はその後、逆に強化された。陸、海、空の3自衛隊に分散していた情報保全部隊を統合、増強した。だが、住民監視はあくまで非合法活動だ。その制約を取り払ったのが重要土地規制法なのだ。第6条に「注視区域」内の土地・建物の「利用状況について調査を行う」と明記。調査の項目は限定されない。「機能阻害行為のおそれ」の疑いだけで、所有者はもちろん交友関係などの調査も「合法」と言い張れる。

 重要土地規制法は「基地周辺の土地を外国人が購入し、敵対行為に利用させてはならない」ことを大義名分にしていた。だがその矛先は明らかに市民に向けられている。軍事基地の強化が進む沖縄で粘り強く闘われている反基地運動を「公然」と監視する。その威圧的効果を狙っているのだ。それはそのまま全国の市民にも向けられている。

   *  *  *

 初動の遅れを批判されている能登半島地震の救助活動。その政府がいち早く手を打ったのが被災地上空のドローン飛行禁止区域指定だ。元日の16時10分に地震発生。翌日の12時には国土交通省が「無人航空機の飛行禁止空域」を公示した。「捜索や救難活動のヘリコプターの妨げにならないようにするため」との理由なのだが、2日の時点で現地の被災状況はほとんどつかめていなかった。どんな情報でも集めたいときだけに、極めて不可解だ。

 その時、政府に届いていた情報は「志賀原発で火災発生(後で誤認と訂正)」だった。政府が恐れたのは、「原発事故の実態が拡散しないか」ということではなかったか。ドローンの映像が広まれば、ごまかしようがなくなる。政府が考える「重要施設の機能阻害行為」とはそういうことだろう。重要土地規制法は、重要施設周辺300bを飛行禁止にしたドローン規制法とセットで市民を監視し、真実を隠ぺいするためのものだ。重要施設に原発を入れ込んだ意味もよくわかる。



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