2024年03月01日 1811号
【明日をつくるなかまユニオン《第15回》/「みんなの力で勝利できた」/派遣先企業にパワハラ問題の解決を迫る】
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なかまユニオンの闘いが、派遣労働者の安全問題で、派遣先企業である大手旅行代理店H社の責任を認めさせ和解させた。組合員Aさんの闘いを紹介する。
Aさんは個人事業主として観光関連の企画運営をしていたが、コロナ禍で2020年以降、本業の傍ら派遣労働で生計を立てていた。
23年1月に派遣会社P社と契約。就業場所として示されたT社で市民対応のコールセンター業務に就いたが、労働条件通知書もなく不安な中の就業開始だった。
高圧的なパワハラ研修
T社で、数日の座学研修を経て2月1日から指導員によるコールセンター業務のロールプレイング研修を受けた。同月5日、指導員Bは「今までの研修は忘れて自分の教えたとおりやるように」宣言し、やり方を教示する。
これまでの研修を無視したロールプレイングへの対応は難しく、Bは「何も覚えていないのか」と高圧的に指導する。相手(市民)役としてBが申し立てる苦情の内容も、実務に役立つものではなかった。
Aさんからの質問に対しても、Bは小馬鹿にした態度で「何を言っているか判らない」等聴く態度を示さず、やむなくAさんは自習を申し出た。またBは、Aさんの机まで来て声高に指導するなどして、隣席の指導員からも注意される始末だった。
派遣会社と個人で交渉
Aさんは当日の夜から、指導員Bの対応が頭から離れず睡眠が充分にとれなかったために病院を受診し、“1か月安静”の診断を受けた。派遣元P社には「経緯書」を提出し、労災申請を申し出た。
Aさん自身は、契約書上の派遣先がH社でありながら、T社が再委託先であったことが判明。就業場所のT社フロアには、H社の派遣社員、T社社員、T社が他の派遣元から受け入れた派遣社員が混在し、Bは他の派遣元からの派遣社員だった。今後の改善も含めて、派遣先のH社を交えて話し合いたいと申し出た。
Aさんの不眠は続き、さらに“3か月安静”との診断を受けた。4か月も就業できず、回復への兆しが見えないため、本業の業務休止による逸失利益の補填(ほてん)も派遣先H社に求めた。
3月にH社から和解案が示されたが、補償内容と就業形態の明確な説明がなくAさんは拒否。その後もH社との話し合いを重ねたが、交渉は暗礁に乗り上げる。
なかまユニオンに加入
Aさんは、個人で会社と話し合うことに限界を感じ、23年4月「なかまユニオン」に加入する。派遣元P社と派遣先H社に対して、団体交渉の申し入れを行った。
ところがH社は団体交渉に出席しなかったため、即日抗議文を送り、4月27日にH社本社ビル前で初の抗議行動。再び団体交渉を申し入れたが、「雇用者ではないので、団体交渉に応じる義務はない」と拒否。この不当労働行為に対して5月16日、大阪府労働委員会に救済申し立てを行った。
府労委の調査の中で、この事案はH社が受託したコールセンター業務を他社へ再委託する中で、安全管理体制があいまいになり発生したことが明らかになった。
なかまユニオンは、以降H社に対して4回の抗議行動を展開。11月28日には、おおさかユニオンネットワークの秋季総行動で連帯する労組の労働者とともに社前抗議行動を行った。
派遣先が責任を認める
そして12月26日、府労委の斡旋で、ついにH社は和解を了承した。
なかまユニオンの井手窪啓一執行委員長は「『派遣先事業者の安全配慮義務における瑕疵(かし)がある』との主張を派遣先H社に認めさせ、本件は実質的に勝利したと言える。この成果を活かし、労働者の権利を守る闘いを進める」と和解実現の意義を強調する。
組合員Aさんは呼びかける。「劣化の一途をたどる労働環境の中で、理不尽な事業主の要求に身を削られながら働き続けざるを得ない労働者に、“理不尽なこととは闘う”姿勢を発信し、共有していきたいと思います。職場で一人悩まず、なかまユニオンに集い、ともに闘おうではありませんか」
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