2024年03月01日 1811号
【イスラエルのサイバー監視技術/輸出され弾圧の道具に/ボイコット運動を広げる時】
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イスラエル経済を支える軍事・セキュリティー産業。同国政府や経済界は「実戦による性能保証」が最大の強みだと豪語する。パレスチナ民衆の弾圧を儲けの種にしているというわけだ。最先端の監視技術が独裁国家や軍事政権に輸出され、民主化運動つぶしに使われる事例も少なくない。
ガザを「実験台」に
駐日イスラエル大使館には経済部というセクションがある。基本任務はイスラエルと日本の「貿易ならびに各種商取引」を振興すること。つまり「イスラエル企業の日本におけるビジネスチャンスを多角的に支援」することにある。
経済部のウェブサイトをみると、イスラエル企業が何を売り込もうとしているか、よくわかる。イスラエルと日本の経済的結びつきを知りたいのなら、情報源として要チェックだ。
このサイトのニュース欄が引用する外部記事を読んでいくと、看過できない表現に何度もぶつかる。イスラエルが熱心に売り込んでいるサイバー監視技術について、“商品の性能は占領を維持するための治安管理と軍事行動で実証済み”とPRしているのだ。たとえば、こんなふうに。
「中東のシリコンバレーとも呼ばれるイスラエルは、軍事生産への障壁が低い。優秀な若者が兵役で培った最先端技術や人脈を生かしたビジネスが盛んです。サイバー防衛やAIに強いテック企業は世界の注目の的でもあります。敵対するイランの脅威に対する警戒を強め、対策を磨いてきた歴史もあります」
実際、イスラエルはヨルダン川西岸やガザ地区でパレスチナ人管理に用いてきたシステムや手法を、大型イベントにおける警備・監視やデモ鎮圧などのノウハウとして、外国の治安部隊に有償で提供してきた。一例をあげると、同国のマグナBSP社は、ガザ地区の監視システムを構築する際に培った技術と経験を武器に、米国政府から高収益の仕事を受注した。
独裁国家も顧客
イスラエル企業が監視技術システムや訓練サービスを販売した国は100か国以上にのぼるという(2018年末時点)。そのなかには、強権的な政権による人権侵害が横行している国が多数含まれている。
アラビア半島の産油国UAE(アラブ首長国連邦)がそうだ。UAEは「アラブの春」に刺激を受けた民衆化要求を鎮圧するために、市民の携帯端末から情報を盗むスパイウェアをイスラエル企業から購入した。NSOグループの旗艦製品ペガサスがそれだ。同社はイスラエル政府の承認と仲介を受け、バーレーン、オマーン、サウジアラビアにもペガサスを販売、数億ドルを稼いだという。
イスラエルの日刊紙『ハアレツ』は、同国のサイバー監視技術輸出に関する調査結果を次のようにまとめている。「イスラエルのサイバー監視技術システムは、人権活動家の居場所の割り出しと拘束、LGBTの迫害、反体制派の国民に対する弾圧などに利用されてきた。イスラエル企業は、購入者が自分たちのシステムを悪意ある目的で利用していることが明らかになった場合でも、スパイ行為を可能にするシステムを販売し続けた」
まさに「死の商人」の所業というほかない。
SNSで情報操作
サイ・グループのように、集団の行動に影響をおよぼす心理操作を専門とする民間企業もある。この会社が提供するサービスは選挙や商業活動において、SNSを活用して誰にも悟られることなく顧客のライバルのイメージを貶めることができるという(フェイクニュースの拡散など)。
日本の話をすると、SNSのリアルタイム監視を得意とするサイアブラ社が日本でのサービス提供を開始した(株式会社テリロジーワークスと提携)。同社は米国務省など複数の政府機関を顧客に抱え、情報工作やサイバー攻撃を通して精神状態や行動を変化させる「認知戦」の対策に取り組んできた。日中対立が煽られる今日の情勢を商機とみたのだろう。
諜報機関仕込み
イスラエルのハイテク企業には軍や諜報機関から転身した技術者が大勢いる。なかでも「8200部隊」出身者の存在感が際立っている。8200部隊はイスラエル参謀本部が管轄する諜報機関で、2000年代初頭にパレスチナ人をサイバー監視下に置くために再編成された。
ここでキャリアを積んだエリート技術者はハイテク企業に高報酬で迎えられる。自ら起業し、数年のうちに富裕層の仲間入りした者も大勢いる。パレスチナ民衆の弾圧に才能を発揮した者が経済的な成功を得る―。これはもう悪魔のシステムとしか言いようがない。
イスラエルに展開する日本企業も軍や諜報機関の人脈を活用している。有望な投資先(新興企業)を一早く見つけ、あたりをつけるためだ。ソフトバンクはモサド(イスラエルの対外諜報機関)の元長官を現地オフィスのトップに起用した。儲けのためなら、暗殺部隊の親玉でも平気で重用することに驚かされる。
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イスラエルにパレスチナ占領をやめさせるための国際キャンペーンが広がりをみせている。ボイコット、ダイベストメント(投資撤退)、サンクション(制裁)の頭文字をとったBDS運動だ。世界最大のセキュリティ会社であるG4S(英国)に、イスラエル事業を売却させるなどの成果を生み出した。
日本でも、伊藤忠商事が軍用品の供給などを担う同社子会社とイスラエルの大手軍事企業エルビット・システムズが結んでいた協力関係の覚書を終了するなどの動きがあった。市民の抗議運動が実を結んだのだ。こうした取り組みをさらに進め、死の商人国家イスラエルに圧力をかけることが求められている。 (M)
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