2024年03月15日 1813号

【ジェノサイド防止命令を履行させるために/入植者植民地主義の暴力を終わらせよう/オンライン緊急セミナーに学ぶ】

 イスラエルにジェノサイド(集団殺害)を防ぐよう求めたICJ(国際司法裁判所)暫定措置命令(1/26)。だが、ジェノサイドは止まらない。ICJ命令を履行させるため私たちはどうすべきか。2月25日、「〈パレスチナ〉を生きる人々を想う学生若者有志の会」の主催でオンライン緊急セミナーが開かれた。

 登壇者は前田朗・東京造形大学名誉教授と高橋哲哉・東京大学名誉教授。

国連の原罪

 前田さんの講演は「12月9日、10日、11日に何があったか」という問いから始まった。いずれも1948年の出来事だ。

 9日はジェノサイド条約が、10日は世界人権宣言が、11日はパレスチナ難民の「故郷に帰還する権利」を認めた国連総会決議194号が、採択された日。イスラエル建国に伴い、膨大な数のアラブ人が故郷を追われ、難民となった事実を国連が認識していたことを意味する。「しかし、国連は何もしなかった。パレスチナ人民が生涯、迫害され続ける時代に入ってしまった。この3日間で、国連が人類史上遂げた大前進と、しかしそれはパレスチナ人民にとっては虚妄の前進にすぎず、国連の“原罪”ともいえることが示された」

 国際法はなぜ目の前で起きているジェノサイドに何もできないのか。前田さんは「ヨーロッパ諸国はアジア・アフリカ・ラテンアメリカを植民地化し、奴隷制・奴隷売買を広げていった。その規範となり、西欧中心主義の世界再編を果たしたのが近代国際法だった。ヨーロッパ世界の白人中心主義は今もなお反省されていない」と指摘する。

民族浄化の最終段階

 高橋さんは「南アフリカによるICJ提訴はグローバルサウスの一角から、近代西欧に発した国際法を使ってイスラエルとそれを擁護する欧米に向けて放たれたブーメランだ」と前置きし、ホロコースト生存者40人とその子孫287人が署名した声明文を紹介した。

 「ナチス・ジェノサイドのユダヤ人生存者と生存者の子孫は、ガザにおけるパレスチナ人の虐殺と、歴史的パレスチナに対する占領と植民地化の継続を断固として非難する。イスラエルに対する経済的・文化的・学術的な完全なボイコットを要求する。"Never again(決して繰り返さない)"は"NEVER AGAIN FOR ANYONE(誰に対しても決して繰り返さない)"の意味でなければならない」

 この声明は2014年8月に出されたが、10年後に起きたことをほぼ正確に言い当てている―「パレスチナ人に対する極端で人種差別的な非人間化」「政治家や専門家が公然とジェノサイドを要求」等々。「ユダヤ人国家たらんとするイスラエルの中に常に存在してきた民族浄化としてのナクバ(大災厄)への衝動が、最終段階に来ている」と高橋さんは見る。

 そして説く。「イスラエルは“入植者(セトラー)植民地主義(コロニアリズム)”国家。植民者が先住民の土地に自らの国家を建設し、支配者として先住民を二級市民に陥れ、追放・絶滅に至らしめる。入植者植民地主義の暴力が先住パレスチナ人に襲いかかっている」

私たちにできること

 民衆がいかにして“国際社会”を動かすか。前田さんは「一人ひとりの市民の命や暮らし、自由や平等の問題として足元から考えていく。その一つひとつが世界の人びととつながっている。それを私たちが決して忘れないこと」、高橋さんは「日本の植民地主義を問い直す。朝鮮や台湾の植民地支配はもとより、アイヌモシリの北海道化は入植者植民地主義の一例であり、沖縄の軍事植民地化は琉球併合から継続する植民地主義の現在形。植民地主義の克服は世界共通の今日的課題だ」と呼びかけた。

写真:南アフリカ国旗を手に「イスラエルはジェノサイドやめろ」。(2月18日 東京・新宿)
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