2024年03月22日 1814号

【ガザ侵攻の背景に天然ガス/イスラエルによる資源略奪戦争/住民を追放、資源は独り占め】

 パレスチナには豊富なエネルギー資源が眠っている。ガザ地区の沖合に存在する未開発の天然ガス田のことだ。イスラエルがこれを手に入れるには、ガザを「再占領」し全面支配するしかない。イスラエルにとって今回の軍事侵攻は資源略奪戦争でもあるのだ。


ガザ沖にガス田

 イスラエルとパレスチナのガザ地区がある東地中海沿岸には、莫大な埋蔵量の天然ガスがある。2009年以降、大規模ガス田の発見が相次ぎ、沿岸諸国が開発を進めてきた。イスラエルの場合、今では発電量の70%以上を同地域のガス田が担っている。

 パレスチナ自治区ガザの領海でも大規模なガス田が1999年に発見された。推定埋蔵量は360億立法メートル。パレスチナ領域内の需要をカバーして余りある量だ。自治政府のアラファト議長(当時)は「この資源は経済の堅固な基盤となり、われわれの独立国家を支えてくれるだろう」と語っていた。

 天然ガスはパレスチナ民衆、特にガザ地区住民の窮状を救う切り札にもなりうる。イスラエルに封鎖されて以来、ガザは深刻な電力不足に苦しめられてきた。自前のエネルギー資源が確保されれば、生殺与奪の権限をイスラエルに握られている現状を打開することが可能になる。

 だが、パレスチナの経済的自立を望まないイスラエル政府は「天然ガス事業の収益がテロの資金源になる」と言い張り、ガス田開発を妨害してきた。自治政府と契約を交わしていた事業者(ロイヤル・ダッチ・シェル)も2018年に撤退。以降、計画は休眠状態となっていた。

住民の強制退去

 そのイスラエルが昨年6月、ガス田開発を暫定的に容認した。ウクライナ戦争の影響である。欧州諸国はロシアに替わるエネルギー資源の代替の供給先を探す必要に迫られた。そこで米国が仲介し、エジプト企業が天然ガスの開発事業を行い、欧州市場に輸出する案が浮上したのである。

 しかし、ガザ地区を統治するイスラム組織ハマスは「天然ガスはパレスチナ人民の財産である」として計画に反対した。ハマスの存在は開発側にとってのネックとなっていた。そうした状況下でガザへの軍事侵攻が始まったのである。

 そもそもイスラエルの極右勢力は、東地中海沿岸の天然資源をパレスチナ側と分け合うことなど考えていない。独占するつもりなのだ。それには「ハマスの壊滅」だけでは不十分である。パレスチナ自治区としてのガザを消滅させることが必要となる。

 イスラエル政府は否定しているが、今回の大量殺戮と都市機能の徹底的な破壊は、ガザ地区のコミュニティ全体をせん滅することを目的にしているとしか思えない。ガザの全面占領支配に向けたシナリオの第一段階ではないか。

 事実、イスラエルのスモトリッチ財務相は「ガザ地区でやるべきことは移住の推進だ」と公言している。「ガザにいるアラブ人が200万人ではなく10万や20万そこらになれば、後処理の議論は大きく変わってくる」と言うのだ。

 スモトリッチは連立政権を構成する極右政党・宗教シオニスト党の代表だ。ガザ住民の追放発言は支持者向けのリップサービスではなく、ネタニヤフ政権の本心と見るべきだろう。

植民地主義の暴力

 在米ユダヤ人で、米ハーバード大中東研究センター上席研究員のサラ・ロイは、イスラエルの対ガザ政策に関する研究の第一人者として知られる。その彼女が産経新聞のインタビュー(3/7付)に答え、「イスラエルの目的はパレスチナ国家樹立の阻止」だと指摘している。今回の軍事侵攻は「パレスチナへの長期的収奪や孤立化、抑圧の文脈上にあることを理解する必要がある」と言うのだ。

 イスラエルによるガザ地区の封鎖、長期占領をロイは「反開発」プロセスと呼ぶ。生産能力など「経済インフラの開発」を許さず、「国際援助などに依存する状態」に追い込むことで、ガザ経済を破壊したと分析。目的は当初から「パレスチナ国家樹立の阻止とパレスチナ人の諸権利の否定」で、最終的には「西岸などの併合」とみる。今のガザ破壊はそのプロセスの「最も先鋭化した形」という。

 実際、ネタニヤフ首相はパレスチナ国家の樹立を拒む言動を隠さなくなってきた。「土地も資源もすべてユダヤ人のもの。パレスチナ人には渡さない」という発想が、入植者による植民地主義国家であるイスラエルの根底にはあるのだ。

 日本にとって植民地主義は過去の話ではない(沖縄への基地押しつけがそうだ)。パレスチナ民衆に対する植民地主義の暴力を食い止めることは私たち市民の責務といえよう。(M)

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