2024年04月05日 1816号

【原発事故、ひとりひとりの記憶 ―3.11から今に続くこと/吉田千亜著 岩波ジュニア新書 960円(税込1056円)/今なお続く被害と闘い】

 本書は、著者が福島原発事故の取材で出会った人びとから聞き取った、当時の体験とその後の避難生活や東京電力、国と闘っている姿を描いている。

 原発が立地している双葉町の住民は、地震と津波の被害で原発が深刻な事態に至っていることをすぐには知らされなかった。1号機の爆発後、避難所に白い防護服を着た人が「ここは35(_シーベルト)あるな」と言っただけで去って行った。住民は放射能の拡散を知らされることなく被ばくした。

 原発の立地する浜通りだけでなく人口の多い福島市、いわき市などの中通りでも、放射線は通常の数十倍から数百倍に上った。3月13日、県立高校合格発表が中学教員らの中止要請にもかかわらず強行された。行政が無用な被ばくを強いたのだ。

 子どもの被ばくを避けるために避難を選択した区域外避難者(いわゆる「自主避難」者)が直面したのは、避難先での生活確保、子どものいじめ被害、地元に残った夫とのすれ違い、離婚など様々な苦難であった。

 本来、救済の責任を持つべき福島県から住宅追い出し裁判を起こされ、いま退去への強制執行攻撃と闘っている避難者もいる。

 甲状腺がんに罹患(りかん)した子どもたちの多くは、「被ばくが原因ではないか」と口にできずにいる。「健康被害はない」とする圧力があるからだ。子ども甲状腺がん裁判の原告たちは「自分たちのことを知ってほしい」「忘れないでほしい」と訴える。

 原発事故の被害は今も続く。被害の実態を改めて明らかにし、さらに広く伝えることが必要だ。事故の責任をごまかし、記憶を風化させ、原発を推進する者を許してはならない。(N)
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