2024年04月12日 1817号
【強制動員問題の解決を/日本政府の「解決済み」を改めて断罪/徴用工裁判 韓国大法院連続判決の意義】
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9つの韓国大法院判決
昨年12月から今年1月、韓国大法院(最高裁)は2018年以来5年ぶりに強制動員訴訟(注1)で9件連続して判決を出した。大法院は、被害者原告の請求を認め被告企業(日本製鉄、三菱重工、日立造船、不二越)に賠償を命じた。18年大法院判決を踏襲する判決であった。
この大法院連続判決の意義は以下の点にある。
第一に、強制動員訴訟において、被害事実が立証されれば被害者の請求を認める司法判断はもはやくつがえらないことを示した。
18年大法院判決後、2022年に韓国では政権が交代した。しかし、韓国司法の判断が揺らぐことはなかった。
第二に、時効の起算点を18年10・30判決とするとの判断により、今回の原告勝訴が確定しただけでなく、18年大法院判決後に提訴した強制動員被害者(51件、原告数は200名超)の訴えが時効で退けられることもなくなった。
9つの判決は、強制動員問題は終わっていないこと、解決もしていないことを改めて日韓両政府、被告日本企業、そして私たちに突きつけた。
「解決策」で終わらない
一連の判決に対し、日本政府、被告企業は相変わらず「判決は極めて遺憾」と表明し「請求権協定で解決済み」等と述べただけだ。政府は「韓国政府が(「解決策」に沿って)対応していくと考えている」(林芳正官房長官)と他人事のような態度をとっている。
“下駄をあずけられた”韓国政府は、「解決策〈注2〉」に基づき、被害者原告に第三者(日帝強制動員被害者支援財団〈以下、財団〉)による弁済で賠償金相当額(+遅延利息)を支払う旨を表明している。
しかし、この「解決策」で問題が終わらないことは明白だ。なぜなら、第一に、原告のうち第三者弁済に反対し、あくまで被告企業の謝罪、賠償を求める原告が存在するからである。韓国政府・財団は、拒否している原告に対し賠償金相当額を供託する手続きを行った。しかし、裁判所は「損害賠償制度の趣旨に照らして著しく不当」「(加害者の)事実上債務免除や免責のような結果がもたらされる」等の理由で供託を受理しなかった。財団の異議申し立ても棄却した。
「解決策」を拒否している原告が、判決の強制執行を求めて差し押えた被告企業の在韓資産の売却=「現金化」訴訟は大法院に係属中で、いつ結論が出てもおかしくない状況にある。
第二に、第三者弁済を行う財団の原告への支払いに充てられる財源(民間企業の拠出による)が41億ウォン(約4億6千万円)にとどまっており、このうち既に20数億ウォンを使ってしまっているため、後続判決で勝訴した原告が第三者弁済を求めても財源不足に陥るからである。9件の訴訟で勝訴した原告は56名にのぼる。これらの原告すべてが第三者弁済を受け入れるとしたら、少なくとも100億ウォンを超える財源が必要となる。今のままでは財団の資金が枯渇することは間違いない。
被害者への初の実質賠償
また、昨年12月28日に判決が出された日立造船訴訟では、被告日立造船が二審判決後に賠償支払いの仮執行を回避するために裁判所に賠償金相当額(6千万ウォン)を供託していた。
原告側はこの供託金を賠償金として差し押える申し立てを行い、裁判所が認め、2月20日、原告は供託金を賠償金の一部として受領した。これは被告企業の金が実質的に賠償金として被害者に支払われる初めてのケースとなった。日本政府の言う「請求権協定で解決済み」の主張には大きな穴が開いてしまったのである。
だが、韓国政府はなおも「解決策」で問題を処理していこうとしている。そのために韓国政府が“期待”しているのが、日本の「誠意ある呼応」である。
1月、新たに就任した趙兌烈(チョテヨル)外交部長官は「韓日関係改善の流れに乗り、日本の民間企業も一緒に船に乗ったつもりで問題を解決していく努力に参加することを期待している」と述べた。
また2月には、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領も「(原告勝訴の判決が)今後も出続ける」との見通しを語った上で、「韓日関係の正常化を望む両国の企業家たちが手助けしてくれる予定」と語った。
いずれも「解決策」を延命させるために、日本企業、とりわけ被告企業が財団に資金拠出することを期待し促しているものと思われる。
いま解決を決断するとき
65年の日韓請求権協定で両国間の財政的・民事的債権債務は「解決」したかも知れない。しかし、植民地支配下で日本が行った非人道的不法行為の被害者救済まで完了しているとは到底言えない。原爆被害者、サハリン残留者、軍「慰安婦」等に対して日本が一定の措置を講じざるを得なかったことがそれ示している。そうした措置から強制労働被害者を排除する理由はない。
「戦時産業強制労働」はILO(国際労働機関)が強制労働条約違反と認定している。条約勧告適用専門家委員会は、2024年報告でもこの問題を取り上げ、「戦時産業強制労働及び軍事的性奴隷制の高齢の生存被害者の期待に応え、その請求の解決を達成するために適切な措置が遅滞なく取られることを確保するよう求める」との意見(勧告)を出している。
日本政府、強制動員企業は、韓国大法院判決、ILO専門家委員会勧告から逃れることはできない。韓国政府の「解決策」も破綻の危機に直面している。
日本政府・企業は自らの責任による解決をただちに決断するときである。
(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)(4・5面に関連記事)
(注1)強制動員訴訟
韓国の強制動員訴訟は、三菱広島訴訟の原告が敗訴し、日本で争うだけでなく韓国でも裁判で争うとして2000年釜山(プサン)地裁に提訴したのが始まり。これに日鉄大阪訴訟の原告らが続き、12年、18年の大法院判決後、日本で敗訴した原告をはじめ未提訴の被害者・遺族も訴訟を起こした。
(注2)「解決策」
18年大法院判決で勝訴した原告が、被告企業の在韓資産差し押さえ、強制執行を求めて裁判を起こした。この差し押え資産の売却=「現金化」を回避するために韓国政府が打ち出した。眼目は、被告企業の賠償支払いを韓国政府下の財団が肩代わりし(=第三者弁済)、賠償金相当額を原告に支払う点にある。
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