2024年04月12日 1817号

【自衛隊、靖国集団参拝はなぜ/「台湾有事」にらんだ戦争準備/「戦死」の美化が絶対に必要】

 陸上自衛隊や海上自衛隊の幹部が部下と一緒に靖国神社を集団参拝している実態が明らかになった。右派メディアや一部の元幹部自衛官は「靖国参拝の何が悪い」と開き直っている。連中の念頭にあるのは「台湾有事」にほかならない。すべては戦争準備なのだ。

 陸上自衛隊ナンバー2の小林弘樹陸上幕僚副長(陸将)らが、公用車を利用して靖国神社を集団参拝していた。防衛省は内部調査を行い、公用車の使用は不適切だったとして計9人の幹部自衛官を処分した。

 その一方で「個人の自由意思に基づく私的参拝」だったとして、宗教施設に部隊で参拝することや隊員に参加強要することを厳に慎むよう求めた1974年の事務次官通達に違反しないと結論付けた。だが、参拝にあたっては行政文書に該当する実施計画書が作成されており、組織的な行為であることは明らかだ。

 靖国神社への集団参拝は陸自だけではない。海上自衛隊練習艦隊司令官・今野泰樹海将補と一般幹部候補生課程を修了した初級幹部ら165人が、昨年5月に制服姿で靖国神社を参拝していた。遠洋練習航海前の集団参拝は毎年恒例の行事となっていたとみられる。

 4月1日には靖国神社のトップにあたる宮司に、自衛艦隊司令部幕僚長などを歴任した大塚海夫元海将が就任した。自衛隊と靖国神社の、これ見よがし的な関係アピールは何を意味するのだろうか。

「戦死」に備えて

 「近い将来国を守るため戦死する自衛官が生起する可能性は否定できない。我が国は一命を捧げる覚悟のある自衛官たちの処遇にどう応えるつもりなのか」。これは火箱芳文・元陸上幕僚長が昨年、日本最大の改憲右翼団体・日本会議の機関紙に「国家の慰霊追悼施設としての靖國神社の復活を願う」と題して寄稿した一文である。火箱は日本会議の代表委員を務めている。靖国神社の氏子総代にあたる崇敬者総代でもあり、靖国に参ると「いざというとき、後に続けという気持ちになる」と公言してはばからない(3/31朝日)。

 『中国を封じ込めよ!』などの著書がある岩田清文・元陸上幕僚長も同様の主張をしている。いわく「現役当時から、個人的には、もしいざという時が訪れ最後の時が来たならば、靖国神社に祀ってほしいとの願いを持っていた。(中略)台湾有事・日本有事の危機感が高まる中、自己の死生観に磨きをかけている自衛官諸氏も多いことであろう。その中には、いざという時は靖国に祀ってもらいたいという、私と同様の気持ちを持つ自衛官もいるものと思う」(1/31産経)。

 いずれも「台湾有事」を念頭に置いた発言だ。“中国との戦争で自衛隊員が戦死する事態に備え、現代版の国家的戦死者追悼・顕彰装置となるべく靖国神社の復権を急ぐべきだ”と言いたいのだろう。

 こうした主張は軍国主義に凝り固まった一部OBの妄想ではない。政府は今、対中国シフトとして琉球弧の軍事要塞化(ミサイル部隊の配備)を急いでおり、沖縄の島々には大量の遺体収容袋が搬入されている。自衛隊にとって戦死者の処遇は喫緊の課題なのだ。

戦争動員装置

 靖国神社は天皇や国家のために戦死した軍人・軍属らを「祭神」とする神社だ。戦前は陸軍省と海軍省が共同で管轄する軍事的宗教施設として、戦死を最高の名誉とする思想を人びとに刷り込んできた。侵略戦争への総動員を精神面から支えてきたというわけだ。

 国家の管理を離れ一宗教法人となった今も基本的な性格は変わらない。近代日本の対外戦争を「自衛とアジア解放のための聖戦」だったと喧伝し、その戦いにおける戦死を国家に命を捧げた「尊い犠牲」として賛美し続けている。

 そうした戦争神社に自衛隊が組織的として参拝することは歴史認識や政教分離の観点から問題だが、いま強調すべきは新たな戦争準備だということだ。戦死を美化し戦争継続を可能とする儀礼装置を戦争勢力は必要としているのである。

既成事実化狙う

 一連の集団参拝は「靖国復権」に向けたデモンストレーションとみるべきだ。実際、右派メディアや政治家が呼応した動きを見せている。産経新聞は「陸自幹部の参拝は当然だ」(1/16社説)とするキャンペーンを展開。自民党の山田宏参院議員は「こんなことで有事の際に自衛隊は戦えるのか」(1/12産経)と述べ、宗教施設への部隊参拝などを禁じた事務次官通達の見直しを訴えた。

 そして1月30日、木原稔防衛相が「必要に応じて改正すべき」との認識を示すに至る。まずは既成事実を積み上げてルールを死文化させる―。改憲勢力のいつもの手口を許してはならない。       (M)

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