2024年04月26日 1819号

【日米比 初の首脳会談の思惑/「未来のためのグローバル・パートナー」をうたい/対中国包囲アジア版NATO狙う】

 岸田文雄首相が4月8日から14日まで訪米した。マスコミは「9年ぶりの国賓待遇」と日米首脳会談にのみ注目するが、今回のもう一つの眼目は、その後続けて行われた初の日米比3か国首脳会談である。対中国包囲網をアジア版NATO(北大西洋条約機構)へと進めたい米国にとって、フィリピンの役割は重要だ。日米首脳共同声明に掲げた「未来のためのグローバル・パートナー」とは、対中露、親米軍事同盟の建て直しに日本も一役買うことを宣言したものだ。

「国賓」会談で異例

 日米首脳には共通点がある。ともに選挙を控えながら、支持率が低迷していることだ。岸田首相を国賓として迎えたバイデン大統領は、対立候補になるトランプ前大統領の「米国第一主義」に対抗し、同盟国を従える「世界のリーダー」を印象付けようとした。

 一方、外交で点数を稼ぎたい岸田首相にとっても「国賓待遇」は願ったりの機会だ。岸田首相は米連邦議会でのスピーチでバイデンの期待に応えた。「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国。そこで孤独感や疲弊を感じている米国の国民の皆様に、私は語りかけたいのです。…たった一人で、国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」。米国をたたえ、日本が「グローバル・パートナー」として米国を支えると決意する姿は、米国にとって「良き従者」に見える。

 しかし、共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」には重要な意味が込められている。欧州における対ロシア軍事同盟のNATO(北大西洋条約機構)とともに、対中国軍事同盟の構築をめざすことだ。つまり、アジア版NATOを形成し、対中露軍事同盟を地球規模で作ろうというのである。

 国賓として招待された日本の首相。異例なことにもう一人の招待客がいた。フィリピン大統領だ。この機会に初めての首脳会談をもった。「日米比3か国間の防衛及び安全保障協力を強化することを目指す」(共同声明)ためだ。

フィリピンを足掛かり

 なぜ、フィリピンなのか。2022年5月、反米親中姿勢が目立ったドゥテルテ前大統領から、「中立」を掲げるマルコス大統領へと替わったことが大きい。バイデン大統領はマルコス当選直後から取り込みに動いた。ハリス副大統領、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官などの閣僚を相次いで送っている。23年5月にはホワイトハウスに招待し、「台湾海峡の平和と安定の維持が重要」とする共同声明をだした。この時から「米比日、米比豪の多国間安保協力体制の検討」へと踏み込んでいたのだ。

 米比間には「防衛協力強化協定」(14年)があり、比軍の5か所の基地を米軍も使用できることになっていたが、この時、新たに4か所が追加された。すべてが台湾・南シナ海を臨む場所だ。台湾までの距離は沖縄島・那覇からの半分ほどと、きわめて近い。米政府は、巡視船4隻、輸送機3機などの軍備の提供や13億ドルの民間投資で応えた(23年5月11日東洋経済オンライン)。

 日本政府も「同志国」への軍事支援として真っ先にフィリピンを選んだ。22年12月に改定した軍事(安保関連)3文書の「国家安全保障戦略」に書き込んだ「政府安全保障能力強化支援(OSA)」第1号案件として沿岸監視レーダーをフィリピンに供与している。

 日米両政府の狙いは、フィリピンを足掛かりとして、他の東南アジア諸国連合(ASEAN)を対中軍事同盟に取り込むことだ。「日本がフィリピンを一生懸命に支える姿を見て、その他のASEAN加盟国が日米は連携に値するパートナーだと思ってくれればいい」と日本の外務省関係者は語っている(4/13毎日新聞)。


中国との分断はかる

 中国も黙って見てはいない。ASEANの本部があるインドネシア。2月の大統領選挙で当選したプラボウォ国防相の当選後初の訪問国は中国だった。習近平主席の招きに応じ4月1日、北京を訪問。「中国は地域の平和と安定を確保するのに鍵となるパートナーの1つだ」と語り、両国関係の強化を確認している。続いて、3、4日には王毅外相がラオス、東ティモール、ベトナムの外相と相次いで会談している。

 ASEANの経済成長に中国の果たす役割は大きい。15年から21年の中国との貿易額の伸びは対米貿易額の伸びと比較し、倍以上になっている。「ASEANと中国の貿易依存関係が急速に深まったことがうかがえる」(22年版経済白書)と日本政府も分析している。

 経済関係の緊密化を背景に、ASEANと中国は、武力衝突を避けるために南シナ海における行動規範(COC)策定の交渉を粘り強く進めてきた。23年7月には策定のための指針に合意。COC交渉が妥結すれば、南シナ海での軍事緊張は緩和され、「紛争の火種」は外交的に解決されるのだ。

 一方、中国との経済戦争に勝つため、バイデン政権は、先端半導体製造装置や高機能半導体の輸出制限をかけている。中国が国産半導体の製造能力を手にするのを遅らせようというわけだ。半導体・集積回路は世界の8割をアジアの国が生産している。武力衝突を避けたいASEANと中国との関係に軍事緊張を持ち込み、分断するためにもアジア版NATOの形成を急ぎたいのだ。

軍拡の口実「台湾有事」

 「台湾有事」が「中国の脅威」を象徴するようになったのは21年3月、米国議会の公聴会で当時のインド太平洋軍司令官が「6年後以降に台湾有事のリスクが高まる」と発言したことからだった。その年の12月、安倍晋三元首相が「台湾有事は日本の有事」と発言、22年版防衛白書に「台湾有事」を登場させた。以来、軍拡へ拍車がかかった。

 ロシアのウクライナ侵攻を機に、NATOの連絡事務所を東京に開設する案まで出た。日米豪印のQUAD(クアッド)、米英豪のAUKUS(オーカス)、日米韓の協力枠組み―欧州とアジアをつなぐ親米同盟が張り巡らされている。

 AUKUSは日米首脳会談の直前、4月8日に国防相共同声明を出し「先端技術開発で日本との協力を検討」としている。検討にとどめているのは、日本に軍事機密保護を強化するよう求めているからだ。日本政府はこれに応え、すでに「重要経済安保情報保護・活用法案」を今国会に提出、まともな審議もなく衆議院で可決し、参議院に送った。「国家機密の漏洩を防ぐ」との口実で労働者の身上調査・監視を強めるものだ。

   *  *  *

 岸田政権の危険性は、「米国が世界で果たしている役割に感謝します」(議会演説)と平気で言えることにある。パレスチナで国際法を犯してジェノサイドを重ねるイスラエルを擁護する米国の役割に、どうして同調・感謝できるのか。世界各地で軍事緊張を高め、軍需産業に市場を提供する米国。岸田首相の芝居がかったセリフは米国の先さえも走る意欲を見せたのである。

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