2024年04月26日 1819号

【庶民をマネーゲームに導く新NISA/いっそう格差を拡大する岸田政権】

 IT企業役員でお笑い芸人・厚切りジェイソンの投資本が売れている。2021年出版の本が70万部を超え、昨年11月出版の続編も8万部を突破した。新NISA(ニーサ)(注)の宣伝役となった彼の解説をテレビで見聞きする機会が増えている。

 若者の興味を集めている新NISAは社会現象の一つだ。その背景に、22年4月から成人年齢の引下げによって18歳からNISA口座の開設が可能となったこと、同年4月から高校の家庭科に投資を促す「金融教育」のカリキュラムが盛り込まれたことがある。

 多くの人びとにとって、賃金は上がらず預金利子は実質ゼロ、年金にも期待が持てない。そんな状況に、岸田政権による「貯蓄から投資へ」路線の露骨な宣伝と誘導がつけこんでいる。

 だが、新NISAはあくまで投資であり、元金の保証はない。失敗してなけなしの資金を失っても、すべて自己責任で済まされてしまう。改めてこうした路線の危険性を考えてみよう。

貯金を投資に誘導

 岸田政権は発足当初、金融所得課税強化や自社株買いルールなどを打ち出していた。ところが、権益を侵害される富裕層や大資本から猛反発を受けてたやすく軌道修正する。22年5月、英国での講演で、岸田文雄首相は「NISAの抜本的拡充、国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組み」を提案した。軌道修正したことを世界に発信した。

 「骨太の方針2023」には、NISAの抜本的な拡充・恒久化や金融経済教育推進機構の設立などによって「資産所得倍増プラン」の実行が明記された。さらに、「2000兆円の家計金融資産を開放し、日本の金融市場の魅力を向上させ、世界の金融センターとしての発展を実現すべく、取り組みを進める」とも言う。「家計金融資産の開放」とは、貯蓄を投資に振り向けることを意味する。その手段として、NISAをより使いやすくした新NISAを導入したのだ。

 「金融センターの発展」のために岸田首相はあからさまな行動をとっている。昨年10月に来日した世界最大の投資会社「ブラック・ロック」のCEOをはじめ「国内外のおよそ20機関のトップらと意見交換」を迎賓館で行った。さらに、このCEOとは今年3月にも面談している。

 新NISAについて鈴木俊一財務・金融担当相は「当初の1700万口座から3400万口座、NISAの買い付け額も28兆円から56兆円へと倍増を(5年間で)目指す」と語っている。

金融庁の詐欺的宣伝

 岸田政権は個人の貯蓄に手を突っ込んで投資に誘導しようとしている。

 金融庁の「新NISA用ガイドブック」は、「長い期間投資を続けると複利効果が大きくなります」と強調して(図)を示している。



 ここには二つのワナが仕掛けられている。一つは、儲けが大きくなるよう見せ、その下に「あくまでシミュレーションであり、将来の投資成果を予想・保証するものではありません」と小さく注釈をつけていることだ。投資への警戒心を薄れさせるためだ。

 次に、複利効果の強調だ。複利効果とは、資産の運用で得た収益を当初の元本に加え再び投資することで利益が利益を生みふくらんでいくという効果だ。その前提は元本が保障されることだが、元本保証がない投資について複利で儲かるかのような金融庁の解説は、不誠実かつ詐欺的だ。

 他にも問題がある。新NISAで月3000億円超が海外資産に投じられるとの試算があり、それが円安への圧力になるという(2/3日経新聞)。円安による物価高で生活が苦しくなったことを忘れてはならない。

 いま貯金ゼロが全世帯の2〜3割に達し格差と生活危機が広がる中、政府が行うべきは庶民のわずかな資産の投資への誘導ではない。まず、株など資産運用で肥え太る大企業・富裕層への不公平税制是正こそ必要だ。大幅賃上げや軍事費を削り福祉へ、の声を上げ要求実現を迫り生活を守ろう。

(注)NISAとは、14年に作られた、株式・投資信託などへの「少額投資(年間120万円まで)」で得られた収益に税金(普通は20%)がかからない制度。24年1月、制度をさらに拡大したのが新NISA。

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