2024年04月26日 1819号

【住めない場所にして住民追放へ/イスラエルの狙いはガザ地区抹消/根底にある入植者植民地主義】

 パレスチナ自治区ガザの惨状を目の当たりにして、日本のメディアも「イスラエル非難」のトーンを強めている。だが、最も重要なことが相変わらず無視されている。今回のガザ攻撃は入植者植民地主義を完遂するための民族浄化作戦の一環であるということだ。

いまだに相対化報道

 イスラム組織ハマスへの報復を掲げ、イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの軍事攻撃を開始してから半年が過ぎた。同地区の死者は3万3千人を超え、100万人以上が壊滅的な飢餓に直面している。

 当初はイスラエルに一定の「理解」を示してきた日本のメディアも、さすがに論調の変化が見られる。その典型が読売新聞だ。昨年10月の時点では「過剰な報復攻撃」に懸念を示しつつ、「イスラエルの反撃は正当な権利であり、ハマスの軍事的な無力化を目指すのは理解できる」(10/16社説)と述べていた。

 それが今では「イスラエルのガザでの無差別攻撃が国際人道法に反しているのは明らかだ」(4/10社説)と指摘するようになった。その上で「これ以上、残虐な殺戮行為を続けることは許されない」として、「一刻も早く停戦に応じ」るようイスラエルのネタニヤフ政権に呼びかけている。

 とはいえ、ガザ侵攻をめぐる基本認識は相変わらずで、読者を「どっちもどっち」論にミスリードしている。たとえば「イスラエルとハマスの政治指導者、なぜ戦闘をやめないのか」と題した解説記事(4/8)である。「大衆人気を基盤とした『ポピュリスト』」であるネタニヤフ首相と「殉教者として死ぬことを望んでいる」ハマスのガザ指導者の対決であることを強調し、「両氏は戦闘の終着点を見いだせない点で共通している」と解く。

 わかりやすい物語で問題の本質を隠すとは、この手の記事のことを言う。思えば、日本や欧米メディアのイスラエル・パレスチナ報道は常にそうだった。パレスチナ民衆に対するイスラエルの暴力について、その動機を決して掘り下げようとしないのだ。

一貫した民族浄化

 イスラエルは何をしようとしているのか。『世界』5月号所収の早尾貴紀(東京経済大学教授)論文「ガザ攻撃はシオニズムに一貫した民族浄化政策である/欧米の植民地主義・人種主義の帰結」が参考になる。

 昨年10月以降に展開されているイスラエル軍のガザ攻撃は「実は一貫したイスラエルによるガザ地区抹消の欲望の表れであり、何ら驚くべきことではない」と早尾は言う。「イスラエルにとっては、パレスチナ全土の乗っ取り、つまり100年プロジェクトのセトラー・コロニアリズム完遂に向けた一歩に過ぎない」と言うのである。

 セトラー・コロニアリズム、すなわち入植者植民地主義とは「ヨーロッパ人が支配者として植民地に入植し、入植者社会を形成していくこと」を指す。文明人を自称する彼らは、土地や資源を収奪することはもちろん、「遅れた野蛮」とみなした先住民を絶滅させるほどの大虐殺まで行った。

 ユダヤ人国家の建設を目指すシオニズムという思想運動は、そうした欧米の植民地主義・人種主義を起源としている。だからパレスチナ民衆の存在を抹消することに躊躇がないし、入植者植民地主義国家の先輩である米国はイスラエルの民族浄化政策を支持し続けているというわけだ。

停戦のその先へ

 ガザ占領研究の第一人者であるサラ・ロイは「シオニズムによる入植政策は一般的な植民地主義と質的に異なる」と指摘する。イスラエルは被占領地の住民を搾取して利潤を上げようとしているのではない。シオニズムが目指すのは「純粋なユダヤ人国家」であり、欲しているのはパレスチナの土地だけで、パレスチナ人は消滅してほしいと願っているのだ、と。

 エドワード・サイード(パレスチナ系米国人の文学批評家)は端的にこう述べていた。「彼ら(シオニスト)にとってもっとも都合のよいパレスチナ人は、死人か不在者です」。民族浄化としか言いようがないガザ攻撃の本質を見事に言い当てている。

 民間人を容赦なく殺害する、食糧・水・電気の供給を止めて飢餓状態を作り出す、インフラ施設や農地などを徹底的に破壊し、生産できないようにする――イスラエル軍の作戦はガザ地区を居住不能にすることを狙っている。実質的な住民追放に向け、既成事実を積み上げているのだ。

 破壊と殺戮を食い止めるために、イスラエルに即時停戦の圧力をかけるのは当然だ。だが、パレスチナ民衆の生存権を否定する植民地主義的政策を世界が黙認するのであれば、この人種差別国家は同じことを何度でもくり返す。  (M)

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