2024年05月03日 1820号

【イランとの「報復合戦」誘うイスラエル/ジェノサイド「飢餓」非難をかわす狙い/戦争拡大するな 即時停戦を】

 イスラエルはイランとの「報復合戦」の構図をつくり出している。世界中で高まるジェノサイド非難をかわすためだ。日本も含め欧米諸国はイランの攻撃は非難するが、イスラエルへの非難は慎重だ。明らかな「二重基準」なのだが、もともとイスラエルのガザ攻撃を正当化する「テロの殲滅」の論理は「二重基準」を前提としているのだ。

明らかな「二重基準」

 イランは4月13日、約350発のドローンやミサイルをイスラエルに向け発射した。これをイスラエル軍や米英仏の「連合軍」が迎撃。「99%」が破壊された。

 イランは攻撃の72時間前にイスラエル側に通告し、迎撃の準備時間を与えた。ほとんどが撃ち落とされても「予想を上回る成功を収めた」と表明。この日の攻撃で「終了」を宣言している。

 イスラエルは19日、イラン中部イスファハンに無人機攻撃を試みた。核施設や空軍基地、ミサイル製造施設がある州だ。イランの防空システムが破壊し、被害は出ていない。イラン高官は「直ちに報復する計画はない」と語っている(4/19BBC)。

 イランとイスラエル間で戦闘が拡大するのかどうかは、イスラエルの出方次第ということになる。イランの攻撃には、主要7か国(G7)首脳がすぐさまテレビ会談で「イランを最も強い言葉で明確に非難」するとともに「イスラエルに全面的な連帯と支援を表明」する声明を出した(4/14)。19日のイスラエルの攻撃には、開催中だったG7外相会議が「全当事者にエスカレーションを防ぐ努力を求める」としただけだった。

 イランが「報復」の原因とした在シリア・イラン大使館への攻撃(4/1)については、忘れ去られている。直後の国連安保理(4/3)で、米英仏は「不明な点が多い」としてイスラエル非難の声明採択に反対した。日本政府も同様の立場をとった。イスラエルに肩入れしていることは明白だ。

 戦争拡大につながる挑発も、報復も行ってはならない。すぐさま停戦を全当事者に呼びかけるべきである。

「テロ」への憎悪扇動

 イスラエルはイランを戦闘に巻き込み、米軍参戦への「環境づくり」を周到に準備してきた。昨年12月には、イラン革命防衛隊の上級軍事顧問をシリアで殺害している。ハマス(イスラム抵抗運動)の後ろ盾はイランだとして、イラン攻撃を正当化してきた。

 イラン大使館への攻撃は、安保理で停戦決議が採択され(3/26)、ガザの飢餓状態に全世界からイスラエル非難の声が高まっていた時だった。ガザで支援活動にあたっていたWCK(ワールド・セントラル・キッチン)の職員7人を爆殺(4/1)したことで欧米での抗議は一層拡大。米バイデン政権さえもイスラエルを非難せざるを得なかった。

 ネタニヤフ首相はイランとの「報復戦」に持ち込み、再び日米欧主要国からの支援を作り直そうとしている。イスラエルが「窮地」を脱するには、再び「対テロ戦争」を前面に出すことだった。「ハマス=テロ組織」を殲滅(せんめつ)することに、日米欧の戦争国家は異議を唱えない。侵略戦争を正当化する共通の論理だからだ。「テロリストは容赦なく殺す」。イスラエルがガザで行っていることのベースになっている考え方だ。パレスチナ人はすべてテロリストであり、テロ支援者であり、テロリスト予備軍とされているのだ。

AIが攻撃先指示

 イスラエルによる容赦のないガザ無差別爆撃の舞台裏が少しばかり明らかになった。イスラエルはガザ空爆を生成AIに指揮させていたというのだ。

 イスラエルとパレスチナで活動するジャーナリストなどが発行する『+972マガジン』(4/3)によれば、イスラエルは、殺害対象とするハマスや「イスラム聖戦」(パレスチナの政党)の戦闘員を割り出すのにAIを使い、3万7000人を特定した。収集済みの戦闘員の行動パターンや携帯電話情報、ソーシャルメディア接続情報、写真などを覚えさせ、ガザ住民230万人に1から100までの点数を付け、「戦闘員」の可能性を決めている。設定する点数次第で、戦闘員は多くも少なくもなるということだ。ターゲットはラベンダー色で表示されるところから「ラベンダー・システム」と呼ばれる。

 「ラベンダー」が標的とした個人を追跡するための「パパはどこ?」と呼ぶソフトウェアがある。数千人もの個人を同時に監視下において、家族でいる所を建物ごと爆撃し、殺害する。高価な誘導弾を使わず、割安な無誘導弾で1棟丸ごと破壊するのだ。その際、「巻き添えで殺害していい市民の数は15〜20人」の目安が定められている。実態は、1人の「戦闘員」もいない場合もある。女性や子どもばかりが犠牲となる背景だ。「ラベンダー」の「精度」自体、イスラエル軍は90%とみている。「誤爆」は想定済み。つまり、無差別大量殺害は意図して行われたのだ。

人質もろとも殺害

 パレスチナ人を「動物」と呼び、人間扱いしないイスラエル軍は、自国の兵士や市民の命さえもおろそかにする。

 昨年10月のハマスとの戦闘で、人質のイスラエル市民が乗ったハマスの車両を戦車で撃ったとイスラエル軍の大尉が語っている(3/26『Mondoweiss』)。「これが正しい決定。拉致を止めた方がいいと判断した」とインタビューに答えている。人質救出よりハマス殺害が優先されたのだ。

 イスラエル軍には「ハンニバル指令」と呼ぶ行動原理がある。古代(紀元前2世紀)カルタゴの将軍ハンニバルがローマ軍の捕虜になるより自害を選んだ史実からとられた名だ。イスラエル軍は否定しているが、「捕虜になる可能性がある自軍の兵士は殺害する」との命令が生きている。大尉の証言は、殺害対象が兵士だけでなく民間人でも同様であることを明らかにした。

 そうであれば、ハマスの攻撃の犠牲になったとされる約1200人のうち、イスラエル軍によって殺された市民が相当数含まれているということだ。「人質解放」を求めるイスラエル市民はネタニヤフ退陣の行動を繰り返している。ネタニヤフは人質を救出するつもりはない。停戦決議を無視し、戦争継続を望んでいるのがネタニヤフ政権なのだ。

   *  *  *

 「対テロ戦争」の掛け声は、いまだに侵略戦争を正当化する「まじない」になっている。01年の9・11事件は、20年以上たっても実質的な裁判は行われず真相が明らかになっていない。だがその後、米国は「テロ」との闘いを「テロ支援国」との闘いへと拡大し、アフガニスタンやイラクを侵略した。

 敵国をいかに邪悪で惨忍な姿に描くかが、戦争へのハードルを下げる。ハマスを「ISIS(「イスラム国」)のような残虐な集団に描く」ことは、イスラエルの情報戦略だった。イランは「テロ支援国」として欧米の敵になっている。イスラエルの残虐さは許されても、ハマスやイランの反撃は許さない。この「二重基準」が戦争国家の「基準」なのだ。



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