2024年05月03日 1820号

【全国で切り捨て続くローカル線 政策転換で「生活路線」維持を】

 コロナ禍による鉄道事業者の経営悪化を口実に、再びローカル線切り捨てが全国で本格化している。破綻が明らかになった国鉄分割民営化体制の維持に固執する政府・JRの姿勢に原因がある。

分断された根室本線

 北海道では、3月31日限りで根室本線・富良野〜新得(しんとく)間(81・7`b)が廃止になった。2016年の台風災害で途中区間の東鹿越(ひがししかごえ)〜新得間が不通になり、復旧されないままの廃止だ。

 石勝(せきしょう)線開通(1981年)までは札幌と道東を結ぶ大動脈として特急や貨物列車が頻繁に往来した。2016年の台風災害では石勝線も約1か月間不通になり、貨物輸送路が絶たれた結果、都内でもポテトチップスが店から消えるなどの影響が出た。だが貨物輸送上、迂回路になり得る根室本線の重要性は考慮されなかった。

 本線を名乗る路線の途中区間が廃止され、分断された例は、1997年の北陸新幹線東京〜長野間の開業に伴って横川〜軽井沢間が廃止された信越本線に次ぐ。

 最終日となる3月31日、新得駅前でJR北海道主催のお別れセレモニーが開催された。廃止に抗議するため、時折小雪の舞う中「根室本線の災害復旧と存続を求める会」の平良則代表らが新得駅前に立ち、「復活を祈念」との横断幕を掲げ復活運動に向けた意気込みを示した。



 メディア取材に対し、平代表は「私たちの声が政治の場に届かず残念」と述べ、市民の声を聞こうとしない政治の機能不全を批判した。

 これに先立つ3月15日には「求める会」の集会が新得町公民館で開かれた。会は今後「根室本線の復活を考える会」に名称変更し再出発することを確認した。


再構築協議会に住民不在

 2023年に一部改定された「地域公共交通活性化再生法」(活性化再生法)に基づく初めての「特定線区再構築協議会」(再構築協議会)が設置された。改定前の活性化再生法では、法定協議会に当たる「地域公共交通活性化協議会」は地方自治体による設置のみが認められていたが、再構築協議会は鉄道廃止や維持費の地元への押しつけを狙う鉄道事業者からの要請に基づき国が設置できるよう改悪された。

 再構築協議会が対象とするのは中国山地を走る芸備(げいび)線の備中神代(びっちゅうこうじろ)(岡山県新見市)―備後庄原(びんごしょうばら)(広島県庄原市)間。3月26日に開催された第1回会合にはJR西日本、国土交通省、岡山・広島両県、沿線自治体(新見市、庄原市、三次〈みよし〉市、広島市)、岡山・広島両県のバス協会などが出席、今後の進め方などを協議した。

 再構築協議会にバス協会が参加していることから、国・JR西日本がバス転換を狙っていることは明らかだ。一方、利用者である住民は再構築協議会の構成員になっていない。住民不在の協議会がどのようにして住民本位の結論を出すのか。

 国鉄末期、国鉄再建法に基づいて設置された特定地方交通線対策協議会には、PTAなど地元住民や利用者も参加していた。再構築協議会に民意を反映させる仕組み作りが必要だ。

予算はリニアにでなく

 2003年に一部区間(可部〈かべ〉〜三段峡間、46・2`b)が廃止されたJR西日本・可部線のうち可部〜あき亀山間(1・6`b)は2017年に復活した。廃止路線の復活は少ないながら国内でも事例がある。

 海外では、英国政府が廃止鉄道路線の復活の方針を示している。メキシコ政府は、マヤ文明遺跡を訪れる観光客や地元利用者向けも含めて、4兆円の国家予算を投じ、1500`bもの長距離で鉄道を整備する。日本であれば宇都宮から東京・大阪を経て鹿児島までに相当する距離だ。

 4兆円は途方もない金額のように感じるが、日本政府は先行きの見えないリニアに3兆円の国家予算(財政投融資)を投じようとしている。リニアを中止し巨額のその費用を回すだけで、全国のローカル線の維持・発展は可能であり、政策を転換しなければならない。
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