2024年05月03日 1820号

【みるよむ(694)/2024年4月20日配信/イラクの腐敗を支える 「エイリアン」?】

 2003年の米軍占領以後、イラクでは「エイリアン」という言葉がよく使われる。これは、実際には職場で働いていないのに賃金を受け取る、政権与党に属する人びとのことだという。2024年2月、サナテレビはその実態を報道した。

 レポーターは「このエイリアンのリストであるファイルは、イラクの最も深部に広がっている」と言う。これをもとに、実在しない人間に対し賃金を国の予算から支出している。その金額は何十億ドルにもなる。

 イラクの政治家や宗派勢力はこの資金に群がっている。ファイルをめぐって、諸勢力間で争いが絶えない。

 シーア派の民衆動員部隊の財務部長は、このエイリアン・ファイルを調査しようとして暗殺された。2015年には、当時のアバディ首相がファイルを明るみに出そうとして、2回も暗殺されかけている。

 これらは、対立する勢力の情報を入手することで、相手を攻撃し、自分らが利権を横取りすることを狙ったものだろう。

 ある元国会議員によると、民衆動員運動は、兵士8万人分の賃金を受け取りながら、指導者たちが横取りしているという。

国家財政の私物化

 イラクでは、宗派勢力が自らの私兵の軍事力を利用し、政府や国会に対して大きな力を持っている。その私兵たちの賃金を国家財政から出させ、それを私物化している。

 さらに、このファイルは、テロ活動による犠牲者の家族と財産の被害を補償するための「犠牲者・社会福祉財団」の中にさえ存在する。まさに、イラク社会の隅々にまでひろがった腐敗構造の一端なのである。

 サナテレビは、底知れないまでの政治と社会の腐敗の実態を明らかにし、このような支配を終わらせるために社会を変革しようと訴えている。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS