2024年05月03日 1820号

【未来への責任(397)/日本製鉄の人権方針とUSスチール買収】

 日本製鉄は、4月1日に突然、「日本製鉄グループ人権方針」を公表した。その中で「『国際人権章典』、国際労働機関(ILO)の『労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言』で定められた国際的に認められた人権(結社の自由・団結権・団体交渉権、強制労働の禁止、児童労働の廃止、雇用および職業における差別の禁止、安全で健康的な労働環境の確保等)および国連の『ビジネスと人権に関する指導原則』を支持・尊重します」と宣言。「自らの事業活動において人権に対する負の影響を引き起こした、または負の影響を助長したことが明らかになった場合は、その是正や救済に向けて適切に対処するよう努めます」と明言した。

 USスチールの買収をめぐり今、米国内で反発の声が出ており、4月12日のUSスチールの株主総会を乗り切るためではないかと考えられる。しかし、今年の2月、ILOの専門家委員会が日本の戦時産業強制労働をILO条約違反と勧告し、韓国の大法院でも強制労働事件で敗訴が確定している。「人権方針」に従い、「是正や救済に向けて適切に対処する」ことが求められている。

 韓国の被害者だけではない。戦争末期の2年間大阪捕虜収容所第12分所(広畑分所)で「日本製鉄に奴隷労働者として搾取された」と証言するドナルド・リーガンさんの孫パトリック・リーガンさんは「日本製鉄がUSスチールを買収しようとしていることを知って失望しています。日本製鉄が戦時中に捕虜を労働力として利用したことをいまだに謝罪せず、認めてさえいないことに憤りを感じています」「過去の悪行を認められない企業が、今後正しい行いをするとは思えないし信頼もできない」と語っている。

 日鉄は、買収に反対するUSスチールの労働組合に対し、「レイオフはしない」と言っている。一方で、日本では呉製鉄所を閉鎖し、多くの労働者を路頭に迷わせ、地域経済を破壊した。さらに、その跡地を補修基地の新設をめざす防衛省に売却しようとしており、県や市との話し合いも拒否している。全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長は「彼ら(日鉄)は我々に、事業計画を変更することになれば、従業員をレイオフしたり、施設を閉鎖したりするだろうとはっきり言っている」と批判する。これまでの日鉄の行動からすれば当然だろう。

 日鉄は大法院判決に対して「適切に対処する」としてきた。であるなら、「人権方針」に従い強制労働条約違反の戦時強制労働問題について「是正や救済に向けて適切に対処」すべきではないか。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS